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2023.02.14

ライフ

前サッカー日本代表専属シェフが語る“福島の海”。「故郷の海はずっと豊かです」

前サッカー日本代表専属シェフ 西 芳照さん●1962年、福島県生まれ。2004年からサッカー日本代表の専属シェフを務め、昨冬開催のFIFAワールドカップカタール大会をもって勇退。また東日本大震災が起きたʼ11年の12月に創業したDREAM24の代表として、いわき市に「ニシズキッチン」、双葉郡広野町に「くっちぃーな」というふたつのレストランを経営する。

前サッカー日本代表専属シェフ 西 芳照さん●1962年、福島県生まれ。2004年からサッカー日本代表の専属シェフを務め、昨冬開催のFIFAワールドカップカタール大会をもって勇退。また東日本大震災が起きたʼ11年の12月に創業したDREAM24の代表として、いわき市に「ニシズキッチン」、双葉郡広野町に「くっちぃーな」というふたつのレストランを経営する。


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歴代最高の大会だったとする呼び声があるワールドカップカタール2022。日本代表の戦いも世界のサッカーファンの記憶に刻まれた。

そんな同チームを食事の面からサポートしたのが専属シェフの西芳 照さんだ。

福島県南相馬市出身で、カタールに県産の秋刀魚を持参したというに西さんに“福島の海”について伺った。

日本代表を支えた福島の幸

アルゼンチンがフランスを破り、神の子、天才、史上最高など、あらゆる称号で讃えられてきたリオネル・メッシが5度目の正直で戴冠して終えたFIFAワールドカップカタール2022。

従来と異なり冬開催となった今大会に事前合宿はなく、選手は各自が日常的にプレーする国からカタールへ。西さんを含むスタッフは日本から定期便を利用して現地に入った。

「チャーター便ではないことから荷物は多く積めず、日本から持ち込む食材も新鮮な魚介や質の高い麺類など最小限にし、あとは現地調達。ただカタールへは何度も行っていますから不安は特にありませんでした」。

国を背負い、サッカーファン以外からも注目を浴び、勝利を熱望されるのがワールドカップだ。心身をすり減らしていく選手を前に、食事で身体を回復させ、心を落ち着かせて欲しいと西さんは願い腕を振るう。

大切にしているのは「選手が食べたいものを、食べたいように」して提供すること。

代表の食事がセットメニューから好きなものを選べるビュッフェスタイルへと変わったのは西さんの意見によるもので、ステーキやうどん、カレーといった温かく食してもらいたいメニューは、焼き加減など選手のリクエストを聞き、西さん自らがライブで調理してきた。

朝食にスムージーが欲しいという選手や、グルテンフリーを取り入れている選手もいる。

「三笘薫さんはグルテンフリーのそばを持参して、一食分を昼と夜に分けて出してほしいと言われました」と近年の選手は食への意識がとても高くなってきていると西さんは言い、そうした要望にもできるだけ寄り添おうとする。

また、常に緊張状態にいることから、想像を超えるメニューが出ると選手は大いに喜ぶのだという。これまでうなぎの蒲焼きや寿司、ラーメンがテーブルに並び、今大会でもサプライズメニューが用意された。

「飛騨牛を出しました。現地の業者さんから手配が可能だというのでフィレ肉を40kgほど仕入れたんです。“飛騨牛”という小さなのぼりも作って立てて、大勝利を収めた初戦のドイツ戦とコスタリカ戦の間にステーキで出したところ、たいへん喜んでもらえました」。

日本から帯同するもう1人のシェフと現地スタッフとで、朝・昼・夕の食事でそれぞれ20種ほどのメニューと、おにぎりなどの捕食を作る。そうした戦う身体作りをサポートする数々の食材の中には、西さんの故郷、福島県産の海の幸もあった。

「県産の食材は青魚、うどん、米、味噌などをよく持って行くのですが、今回は小名浜で水揚げされた秋刀魚と、相馬でとれたきゅうりの漬物くらい。

脂がのって鮮度抜群の秋刀魚は10kgすべてをつみれ汁に。これは試合前日に出す定番メニューになっていて、カタールでも美味しいと味わってくれていました」。

すべての食材には西さんが目を配る。どれも日本のスーパーで購入できる一般的なものながら、選ぶ基準は「少しでも安心して食べてもらいたい」という気持ちをかなえるもの。

故郷の海の幸をカタールへ持ち込んだのも質の良さに自信を持つからだ。


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