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「これはリサーチがかなり長期戦になるぞ、って思ったかな」と、ハワイ州パールシティで幼少期を過ごしたナカマさんは語る。

カリフォルニアに戻れなくなったので、交流の手段としてTikTokで@umeboiというアカウントを使い、ハワイにアジア移民がもたらした風習や、自分のアート作品の制作過程など、さまざまな動画を投稿した。最も注目を集めているのはアートの歴史を解説するTikTok動画だ。

芸術の専門用語を日常的なわかりやすい言葉に言い換える才能を発揮している(スウェーデンの画家兼神秘主義者ヒルマ・アフ・クリントの作品について語った動画は、これまで120万回も再生された)。

両親を見習って――母は小学3年生の教師で、父は中学生に歴史を教えている――ナカマさんもいつか人にものを教える仕事をしたいと思っている。



「たぶん刷り込みが入っちゃってるんだろうけど、まじめに、教師っていうのはすごく影響力のある仕事だと思うんだ」 。

個展開始から1週間後の画廊で、人工芝に裸足で触れて周囲の作品を眺めながら、ナカマさんの話を聞いた。『むかしむかし』について、アートの世界への接しやすさについて、そして神話について・・・・・・。個展『トークストーリー』も、ホノルルのカアアコ地区にあるショールーム兼画廊「フィッシュケーキ」で開催された。



──予定外の帰郷をして、もう1年以上になるのですね。どんな気持ちですか。

ハワイに戻るのは、ほんとにわくわくしたんだ。ハワイ出身であることをテーマにした本格的な個展は初めてだったから。これまでそのテーマに向き合ったことはなかったんだ。

──ためらう理由があったのですか?

ハワイ出身のウチナンチュの日系人って、すごく細かすぎる設定だから、学校では誰も気に留めなかったし、関心も持たなかった。僕の中の無視されてる部分だったんだ。

でも、それは僕のボキャブラリーが足りなかったせいでもあった。こういう作品の制作みたいに、視覚や文字を使って、育ちとアイデンティティの特殊な形を語る言葉が僕の中になかったんだね。

だから、この個展に出してる作品は、ある意味で共同作品なんだ。おじいちゃんが大昔に作ったもの、ひいおじいちゃんから受け継いだものでもある。大勢の人と一緒に作る気持ちで作品を作りたかったんだよ。

マヤ・アンジェロウ(※訳注 アメリカの詩人、公民権活動家)が言ってた表現がある。人生で接してきた人たち全員が今も私のそばにいる、って。その気持ちがすごく刺さったんだ。この個展のときは特に。

──『むかしむかし』の全体を通じて、独特な空気がありますね。ハワイのレンズを通じて解釈した民話の表現も含まれています。例えばこの作品には、サトウキビ畑にいる桃太郎が描かれています。あなたの作品で、神話はどんな役割を果たしているのですか。 

「むかしむかし」という言い方が好きなのは、「いつか、こんなことがあったとして」っていう意味と「遠い過去に」っていう、両方の意味になるからなんだ。

完全な神話ベースとかフィクションとかじゃなくて、いくらかの現実味がある。ファンタジーにひらめきを受けて現実を見つめるという感じかな。でも、こういうアプローチで物語と接することで、僕自身のアイデンティティの虚像の部分と向き合えた。

ハワイの飾らない現実と向き合って、ハワイといえばこういうもの、みたいな極彩色のパラダイスのイメージを剥ぎ取りながら、歩いていてバナナの木を見るときみたいな、ささやかな瞬間にひたる、そういう両方の意味でね。

おとぎばなしを道具として使って、というか、おとぎばなしの再構築をしながら、ハワイと僕自身との関係を描いてみたかった。ハワイを美化しすぎず、だけど僕がこれまで当たり前に思っていた部分を改めて評価する、そういう関係でね。


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