渡辺真史さんは右利きだが、時計も右腕に着けるのがお決まり。その理由とは?
「きっかけはずっと父親がそうしていたのを見てたからだと思います。僕が10代で初めて買った時計も自然に右腕にしてました。それがスウォッチでしたね」。
時は1980年代後半。スウォッチ人気がにわかに高まり、米国ではスケートボードに興じるキッズたちがそれを2個着けしたりして個性を主張していたのを目の当たりにしたのが、渡辺さんが惹かれた経緯。
「だけど大人になるにつれて、知識も収入も増えていくとだんだんと高級時計に憧れるようになりました。
ロレックスの’60 年代のミラーダイヤル、『サブマリーナー』とか。ジャガー・ルクルトの複雑機械式時計にも手を出したり、エルメスやカルティエを着けてた時期もあったな」。
しかし、自身の経験値がある程度のレベルに達すると、今度はせっかく集めた時計をしだいに手放していくように。そして「エクスプローラー」と「タンク ルイ カルティエ」だけを手元に残し、ついに渡辺さんは時計自体を着けなくなった。
「それが2年くらい前。仕事が忙しくなりすぎて、心の余裕がなかった時期です。時計がいいもので存在感があるぶん、余計に時間に縛られているように感じたんでしょうね」。
そんな生活はしばらく続くが、友人から偶然安価な一本を贈られたことがきっかけで、彼の右腕には再び時計が復活する。それが偶然にも原体験でもあるスウォッチだった。
「10代の頃に戻ったような感覚で楽しめていて、僕が好きなスケーターライクなコーディネイトにもばっちりハマる。あと高級時計よりも、スウォッチが知らせてくれる時間のほうが、なぜかリラックスできて心地いいんですよね。
時計選びって自分の内面にすごく影響されるもの。常に身軽でいたいという今の僕のマインドを表す“映し鏡”のような存在だと思うんです」。
比嘉研一郎=写真 今野 壘=取材・文