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「こういうアプローチで物語と接することで、僕自身のアイデンティティの虚像の部分と向き合えた」


──こんな状況にならなかったら、『むかしむかし』の個展は卒業制作としてカリフォルニアで開催していたんですよね。ここハワイで開催することになったのは、あなたにとってどんな意味がありますか。 

始める前は、家族には見てもらえないだろうな、って思っていた。ハワイの前に、僕の最初の個展を日本とカリフォルニアで開催したんだけど、そのときは僕の作品を家族に知ってもらうことができた。

だけど、これはチャンスだって気づいたんだ。ここなら、おばあちゃんとか、100歳のおばさんとか、これまでは足を運べなかった人たちにも来てもらえる。ハワイでするならハワイの人たちに認めてもらえる個展にしよう、って頑張ることになる。

それって僕自身がぬるま湯から出ることでもあったんだ。アートの世界では、ついついアートの世界の人に向けて発信しちゃう。みんな認めたがらないことだけど、それってリアルじゃないんだよね。

だから考え方を変えてみることにしたんだ。親戚たちにも理解してもらえて、しかも、作品を通して伝えたいことも広げられるような、そういう個展にするにはどうしたらいいか。どっちも妥協せずに、どうすればうまくそのふたつを合わせられるかな、って。



──それで、より「接しやすい」個展にしよう、と?

多少ね。この個展の前から、接しやすさっていうのは僕の大きなテーマだったんだ。視覚で理解するのがすべてじゃないって証明したい。

分け隔てなく堂々と見せるのはいいんだけど、同時に「これを見ろ」ってなっちゃうのは避けたかった。



──TikTokにのめりこんだのも、それが理由ですか。

そうだね。究極的には人に何かを教えたいっていう夢があるから、[TikTokの]コミュニティができてから、場の空気をうまく誘導していくにはどうしたらいいか、すごく勉強になった。どんな言葉を使ったらいいのか、どんな言葉を使ったらだめなのか、動画の1本1本が実験になる。

僕が何かをわかりやすく説明して、見終わった人が「参考になることがたくさんあったなあ」と思えるようにしたいんだ。TikTokを経験して、アート制作に対するアプローチも完全に変わった。

こんなふうに動画で喋るのがすごくやりがいがあるんだから、作りたい作品を作るのをためらってちゃいけないんだよね。失敗するのをためらったりしちゃだめなんだ。

──あなたの作品の多くに、点々が2個描かれています。これがあなたのサインになったきっかけは?

2年くらい前からかな、点々を入れてるのは。作品に統一性を出すっていうか――アートを接しやすいものにしつつ、同時にコンセプトもあるものにするには、どうしたらいいだろうって考えたんだ。

僕はいつも、アートは人と作品との関係なんだって話してる。作品に2個の点があったら、「あ、目がある」ってなるでしょ。作品のほうもこっちを見てくる。空想の友達みたいに。

そしたらもっとじっくり見つめ合いたくなる。それに、ちょっとかわいいしね。ふたつの点々で、かわいらしさと、そこに込めた概念を、最大限に重ねられる気がするんだ。かわいさって、見る人を身構えさせない手段として、すごく効果的だしね。



──画廊の床に座った体験は初めてかもしれません。なぜ人工芝を敷いたのですか。 

自宅をオープンスタジオにして展覧会をやったとき、初めて人工芝を使ってみたんだ。いかにも画廊っぽい真っ白な雰囲気にしたくない、っていう理由が大きいかな。

アートの世界は大好きなんだけど、すごく独りよがりな環境だっていうのも理解できる。親しみやすさと芸術家らしさは両立できるはずだよ。この人工芝のスペースに実際に入ってみて、長居したい気持ちになってほしいんだ。

This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

ミッチェル・コガ=文 上原裕美子=翻訳

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