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2018.11.26

ライフ

平山祐介の推薦図書⑥陽気でエネルギッシュな生き方を学ぶ『移民の詩』

オーシャンズゆかりのモデルたちはどんな余暇を過ごしてる? 彼らの普段見えない部分を取材する企画の一人目は、俳優としても引っ張りだこの平山祐介さん。“本の虫”としても知られる彼に聞いた、オーシャンズ読者が絶対にハマる推薦図書とは?
今回平山祐介さんが強く薦めたい本は、水野龍哉が2016年に描き下ろした一冊で、著者とユースケさんは友人でもあるという。
先に紹介した『ワイルド・ソウル』は、ブラジルへ移住した日本人を題材にした小説だったが、今回紹介する『移民の詩』は、日本に逆移住した日系ブラジル人たちを描いたノンフィクションだ。

『移民の詩:大泉ブラジルタウン物語』
水野龍哉・著/CCCメディアハウス
町内の10人に1人、約4000人の住民が日系を中心としたブラジル人の群馬県邑楽(おうら)郡大泉町。多文化共生への道を模索し続けた大泉の町民と日系人らを、水野龍哉さんが丹念に取材。その人間模様を描いたノンフィクション。
──今回は『移民の詩』ということですが、この本を選んだ理由は?
平山「『移民の詩』は群馬県の大泉という、ブラジル系の移民たちが多く住んでいる街の話です。僕はサッカーも好きだからブラジルという国にもともと興味があって。ほら、彼らってすごく陽気じゃないですか。あれって何なんだろうなって思ってて。著者の水野龍哉さんとは親交があって、彼もブラジル人の気質に触発されていました」。
──ブラジル人は確かにすごく陽気なイメージがあります。
平山「生きることをすごく楽しもうとしているというか。『人生は楽しまないと損だよ』っていう考え方。僕は比較的、生真面目に生きているほうだから(笑)、そういうブラジル人の根っこにある陽気さに憧れるのかもしれないですね」。
──どんな内容なんですか?
平山「大泉で働いているブラジル人たちの日常です。元気に働く彼らの尋常じゃないエネルギーには頭が下がるばかり。『なぜそこまで身を粉にして働くのか』って水野さんが聞く場面があるんですけど、彼らは『人を幸せな気持ちにすることが好きだから』って言うんですよ。これってすごいなと思って」。
──人を幸せにするために働いてる、ですか。
平山「かつて出演した『海猿』という映画の撮影で、毎日のように海上保安庁の船に乗せてもらっていたんです。海保職員の仕事はすごく過酷。2〜3カ月ずっと家族を陸に残したまま、海上を警備することもある。彼らに『何でそんなことができるのか?』って聞いてみると、みんな『人の役に立ちたいから』って言うんですよね」。
──ブラジル人たちと似てますね。
平山「そうなんです。純粋にそう言える人はすごいと思います。カッコつけてるわけじゃなくて、本当に気持ちがキレイなんだろうなって。自分がちょっと恥ずかしくなるというか、こういう人って本当にいるんだなって単純に思いました」。
──確かにそう簡単には言えないことですよね。
平山「そういうエピソードがこの本にも色々と書かれてます。ここで出てくるブラジル人によれば、ブラジルで日本人はすごく評判がいいんですって。真面目で勤勉で優しい人が多いって。日本政府の移民政策があったからブラジルと日本は関係性がある。日本に来るブラジル人は『日本人は信頼できる』って思ってるんですって」。
──それは知りませんでした。
平山「だからブラジル人たちは『自分たちもブラジル人として恥じないように生きています』って言うんですよ。これを読んで、ブラジルに渡った日本人たちが、いかに現地の人に信頼される振る舞いをしていたのか、逆に知らされましたね。きっと周りに気を使いながら、気高く生きていたんだろうなって。当時の日本人について知らされたのも驚きでした」。
──日本にいたら全然わかりませんね。
平山「こういうことを僕ら日本人は知らなさすぎるのかもしれません。日系ブラジル人たちが長い年月をかけて培ってきた信用がある。彼らのそうした歴史的な側面に対する認識が、僕たちには欠けているように思えます」。
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──大泉に移住したブラジル人はうまく溶け込んでいるんですか?
平山「大泉は一時期、治安が悪くなったんです。日本に出稼ぎに来たけどうまくいかず、なかには日本人とコミュニケーションが取れなくて生活が荒み、盗みを働いたり、ギャングの一員になったりする人もいたみたいで。だけど、だんだん日本の良さに気づいたり、大泉の人たちと接したりすることで、ここで根を張って生きていこうと決める。結婚して子供ができて、気持ちを入れ替えて真面目に働き始めたりするんですよ」。
──時間をかけて共存していったんですね。
平山「東京では、どこを歩いていても外国人を見かけますし、当たり前に共存しているように見えます。でも実際はどうか。言葉の壁でコミュニケーションを諦め、“彼らと自分たちは無関係だ”という目で見ている人も少なくない気がします。でも、大泉ではそうじゃない。日本人だろうと外国人だろうと、普通に接することがいちばん大事だと思っているし、それを徹底することで雪解けがあったんじゃないかと思います」。
──東京などの都会でも、大泉を見習えるでしょうか?
平山「ヨーロッパやアメリカで仕事をした経験があるから、海外の人たちが日本人をどう見ているか、逆に日本人は外国人をどう見ているか、それは自分なりに知っているつもりです。この本を読んで『本当にそうだな』と思ったのは、オリンピックで『おもてなし』っていう言葉が流行ったけど、そんなのできてないよねってことですね」。
──どういうことでしょう?
平山「“お客様”に対する『おもてなし』はできるかもしれない。でも、“友人”として、日本人、外国人の隔たりなく、相手をもてなす気持ちは持てているだろうか。例えば外国人を労働力として受け入れることにも閉鎖的ですし、僕が移民政策に賛成だと言っているわけじゃないけど、そのあたりの政府の方針について、真面目に考えたことがある人はどれだけいるんだろうって」。
──あまりいないかもしれませんね。
平山「外国人と普通にコミュニケーションを取る、普通に接する。オリンピックの『おもてなし』よりも大事なことだと思います。ブラジル人を受け入れると決めた大泉の人たちも当時すごい考えたと思うし、彼らの議論のほうがよっぽど進んでます。『おもてなし』もオリンピックのときだけの一過性で終わらせちゃダメだし、それをふと知らせてくれた作品です」。
──外国人やマイノリティとの接し方についてもっと考えるべきだと?
平山「本にはそこまで書かれていませんが、それを考えるキッカケにはなると思います。移民として受け入れる外国人の数が日本は少ないですよね。それも驚きですが、日本が今後どう移民や外国人を受け入れ、在日外国人や旅行者にどう接していくべきなのか。それは避けて通れない課題だし、僕は無関心がいちばんいけないと思ってます」。
 
改めて一本筋の通った、カッコいい男だと感じさせられるインタビュー。次回はユースケさんがちょうど読んでる最中だという小説『村上海賊の娘』について。
 
清水健吾=写真 TAKAI=ヘアメイク ぎぎまき=取材・文

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