いつも心のどこかに、「まだ見ぬ“マイ・ベスト・デニム”があるに違いない」。なんてことを感じつつ、ゴールのないデニム道を日夜邁進している我々オーシャンズ世代。
かの兼好法師も「先達はあらもほしきこと」と言っていたとおり、道の先を行く先輩の知恵は借りたいものだ。そこで、デニム道を極めつつある業界の達人たちに、彼らなりの「デニム道」を聞いてみた。
デニム道を求める彼らを、勝手ながら「デニム侍」と銘打たせて頂き、その真髄を聞いた。
1人目のデニム侍
スタンダードカリフォルニア 代表 阿久戸秀高さん
「ゆるいデニムを小物でしめる」
ヴィンテージ好きが高じて始めた恵比寿のショップ、スタンダードカリフォルニアも16年目に突入、今や業界人も通うカリスマ的地位を確立している。その看板を背負う“ミスター”が阿久戸さんだ。
サーフィンも嗜む彼が実践する「アメカジ」は、奇をてらうことがないのに、しっかりと個性が滲む。
その真髄は、好みを追求したデニムシルエットにあるという。
同店で扱う「S905」は、ややゆったりとした王道のストレートシルエット。「これくらいのゆるさが自分にはジャスト」と、リラックスした雰囲気を醸している。
「でも、ただゆるいだけだとだらしなく見えてしまうので、少しだけ“引き締める”部分を出すようにしています(笑)」と、茶目っ気ある笑顔を交えつつ、ポイントを解説してくれた。
「ポイントは、黒アイテムと、大人を意識したメガネですね」。
黒Tシャツは、ボトムスに合わせてピタピタしすぎないサイジングをチョイス。そして、小物は黒のサンダルとGショック。
「暑いですから、サンダルで。でもスエード&スタッズ付きでおめかし(笑)。イエローとブラウンのカラーが入ったGショックは、アクセサリーを着けないときのワンポイントとして手放せませんね」。
そして、最後のトッピングがメタルフレームのメガネ。「デニムにTシャツだけだと、若すぎるので、少しジジくさいくらいの“銀縁”メガネが品良く見せてくれます。若い頃などは似合わないと思っていましたが、最近久々に掛けてみたら、似合いました(笑)。オーシャンズ世代の皆さんも、デニム姿の引き締め役にきっと重宝すると思いますよ」。
2人目のデニム侍
フリープランナー 種市暁さん
「デニムを夏仕様に見せる色使い」
Tシャツ&デニムと麦わら帽子で、まるで夏休みの少年のように笑う、本誌連載「
種カジのタネあかし」でもおなじみのフリープランナー、種市暁さん。もちろん、デニムスタイルも随所に「種カジのタネ」がまぶされている。
種市さんが今ヘビロテしているのは、薄色のインディゴデニム。
「夏らしく、ウォッシュデニムも気分かな、と。今の季節に濃色だと見た目が少し暑苦しいですからね。このデニムは、デンハム の“ボルト”というスキニータイプ。脚のラインがキレイに見えるのがいいですね」。
早速の「タネ」ですが……。
「夏は服装がシンプルになりますよね、だからこそ自分らしく! このデニムは少しダメージ加工が入っていて個性を匂わせてくれるし、Tシャツはプリントが大きい僕の大好きなアートTを。そして、それらをシックに大人らしくまとめてくれる黒がポイントです」。
黒の靴とバックパックによって確かにグッと印象が引き締まっているあたり、さすがの色使い。
「普段の僕を知る人なら夏の足元はビーサン、と思うかもしれませんが、このデニムにはあえての黒靴。しかも’90年代テイスト漂うモンクストラップのワラビーで、ちょっとキレイにしました。キレイと言えば、ネックレス。ゴールドをさらりと着けるのが、“枯れ感”が出て来たオッサン世代にはよく映えるし、夏のデニム姿を格上げてしてくれますよ」。
3人目のデニム侍
スタイリスト 池田尚輝さん
「普通のデニムを普通に見せないこと」
デイリーユースの目線を崩すことなく、日常に少しだけモードなスパイスを加えてくれるスタイリング。それが、スタイリスト池田尚輝さんの真骨頂だ。自身のスタイルもそうしたエッセンスが存分に発揮されており、各メディアで池田さん自身が取り上げられることも少なくない。
そんな池田さんが今、気分と感じている1本を披露してもらった。
「極端なオーバーサイズといった個性派トップスと合わせる場合、デニムはとにかく“普通に”したい。これは、古着界でいう“レギュラーの501”を漁りまくって大型古着店で発見しました。レングスも色落ちも申し分なしで愛着もひとしおです」。
そこに合わせたのがクリーミーな白シャツ。確かにオーバーサイズで個性的だが、トータルでまとまりが生まれている。
「大きめなサイズは’80年代を意識しています。ダボっとしていて、昔父親がしていたような懐かしい感じ(笑)。ルケーシーのショートウエスタンブーツや細めのベルトと、上質な茶色のスタンダードな革小物と組み合わせることで、上品な雰囲気に仕上げました」。
引き算と足し算を巧みに使い、普通のデニムを普通に見せない方法をロジカルに構築する池田流が存分に感じられるデニムコーデ。即戦力になりそうだ。
さすがの「デニム侍」たち。それぞれ求めてきた道が垣間見える、素敵なデニムの選びとこなし。
自分の気分をきちんと把握して、そこにマッチするデニムを選べるか。そして、大人らしい味付けを無理なくできるか、そのあたりに答えはありそうだ。
恩田拓治=写真 髙村将司=文