「オレ、デニムにはうるさいよ」という人も、「はき心地が良ければなんでも」という人も、多かれ少なかれ、選びのこだわりを持っているはず。
しかし、ふと立ち止まると、長らく愛しているデニム選びの視点といえば、シルエットに加工、ブランド……くらい? こんなにも身につけているのに、「デニム」という生地そのものに対しては、知らないことが多いことに気付かされる。
そこで今回は、ファッション業界で“デニム博士”と名高い「スロウガン」デザイナーの小林学さんに、デニム選びに関わる“生地”について聞いてきた。
そこで出てきた目からウロコの6つのポイント。知れば、倍々ゲームでデニム選びが面白くなっていくこと間違いなし!である。
POINT1:
よく聞く単位「オンス」は生地の厚さにあらず!
ショップで、雑誌で、たびたび見るデニム生地に使われる単位「オンス」。知ってるよ、生地の厚さを示す単位でしょ。という方も多いかと思うが、あえて聞きました。オンスってなんですか?
「オンスというのは“厚さ”ではなく、デニム生地1平方ヤード(1ヤード=91.44cm)あたりの“重さ”の単位です。標準的なのは13.5オンス(約382.7g)で、この起源となっているのが、ヴィンテージのリーバイス501XX。今でも多くのデニム生地メーカーの基準になっています」(小林学さん。以下カッコ内はすべて小林さん)。
オンスとはなんと重さの単位とのこと。つまり、13.5オンスを基準に、数値の大小でヘビーかライトかを判断すればいいということか。
「大まかに言うとそうです。一般的にオンスの数値が低ければ軽量になるぶん風合いは損なわれ、高ければ風合いは生まれるけど、重くなる傾向にあります。厳密には使われる綿糸の番手(太さ)によっても風合いが異なるので、一概には言えませんが」。
「ボトムス用で軽いものですと10〜11オンスあたり、重いと14〜15オンスあたりをよく見かけます。僕は、21オンスという超ヘビーデニムも見たことがありますよ(笑)」。
おー、それはさぞかし強面のデニムなんでしょうね。
しかし、はき慣れた501(13.5オンス)を基準にするのはわかりやすい! ライトオンスが軽くていいなんて思いがちですが、一方で素材感が弱まるとは。自分の好きなオンスを知っておけば、今後のデニム選びの参考になりそうだ。
POINT2:
「2%」は男クサさと快適さを両立させる黄金比率
「最近、流行りのストレッチジーンズがコットン100%ではないのはご存知ですか?」。
それ、知ってます! ポリウレタンを混紡しているんですよね。
「そうです。主流は、ポリウレタン繊維の軸に綿繊維を巻きつけた、ストレッチ性を持つデニム糸を使った手の込んだ作りの生地を使っています。『ポリウレタン2%』というのは、ストレッチ性とデニムの骨太な風合いのちょうどいいバランスが取れる絶妙な着地点。混率が高すぎると、デニム特有の風合いが損なわれるうえに、少しレディスのような見た目になる恐れも。加えて擦れてクラッシュしたときに、横糸がゴムのように縮れてしまうこともあるんです。これは格好悪い。ダメージ加工のことなども考慮に入れた、最良のバランスが2%という数字なんですよ」。
おー、まったく気にしていませんでした。早速クローゼットのストレッチデニムの表示タグをチェック! ラクチンにはけるストレッチデニムはありがたいけれど、男クサさを大事にしたいなら、混率が高すぎるのは要注意ということなんですね。
POINT3:
デニムが育つ“将来”を知りたいなら生地の裏を見よ!
モードブランドからフランドリーブランドに至るまで、デニムを展開していないブランドはないくらい百花繚乱の昨今。それぞれのデニムをパッと見比べても、読み取れることがあるという。
「生地の裏側を見ると、ひとつ大きな情報になり得ますよ」。
どういうことか? まず大前提として、デニム生地は、その狙いに応じていくつかの方向性に分類されると小林さんは言う。
「ひとつは、オンスのくだりでも述べた、古き佳きヴィンテージデニムをどこまでリアルに蘇らせるかという武骨なヴィンテージ派。もうひとつが、ラグジュアリーブランドに見られるように、ジーンズをどこまでクリーンに、エレガントに仕上げられるかというキレイめスタイリッシュ派」。
「手に取ったデニムがふたつの方向性のどちらを目指しているのかは、横糸に表れることが間々あります。そして横糸は、デニム生地の裏側を見ればはっきりとわかりますので」。
「同じリジッドでも、横糸によって実は表現したい世界観が大きく違います。簡単にいうと、横糸に“白綿”を使ってデニムの表情を際立たせているものがヴィンテージ派。“茶綿”などを使って生地のトーンを落ち着かせているものが、スタイリッシュ派です」。
「上の写真からもわかると思いますが、裏側にはっきりと見える横糸は、表地にも顔を出して、その表情に影響します。白綿だと、織り目の谷間に見えるの白っぽい糸が横糸です。縦糸のインディゴとコントラストをなして、荒々しく強いツラ構えになりますね。一方、茶綿やグレー綿の横糸だと、縦糸のインディゴに馴染んで落ち着いた印象に映ります。いずれにしても、裏側を見るとすぐわかりますので、デニム選びの際にその方向性を確認してみるといいと思います」。
横糸の違いによって、はき込んだあとの表情も変わるのですか?
「白綿はインディゴとのコントラストが強まりますので、結構はっきりとした色落ちに。茶綿やグレー綿は縦糸の色と馴染むので、マイルドな落ち感になります。将来の“成長”も当然、違ってきますね」。
よりヴィンテージ感を楽しむなら白綿、よりマイルドでエレガントなら茶綿やグレー綿ということ。しかし、生地の裏側だけでここまでわかるとは驚き。今日からショップで、ちらっと“デニムの裏”を見てみよう。
POINT4:
日本、イタリア、アメリカ…… 結局“どこ産”がいいんですか?
タグを見れば大きく書かれていることも多いデニムの生産地。海外ブランドでも日本製のデニム生地が使用されていると誇らしくもある。一方、イタリア製と聞くと洒落た印象があるし、アメリカ製と聞くと、やっぱり本場だよな、なんて思うわけで。
「デニム作りにおける哲学の違いが、国ごとにデニム生地に出ていると思います。日本は“生カルチャー”先進国。生のデニムを管理して、計画的に供給していこうという姿勢が強い。そして、真面目で器用なお国柄ですから、できることの幅が広いのが特徴です」。
「イタリアはアルチザンの国。ゆっくりとした時間のなかでデニムを織り上げる丁寧な仕上がりがいい。ヨーロッパは、ウォッシュやダメージなどの加工技術も発達していますから、加工を前提とした生地が多いように感じますね」。
「アメリカはとにかく合理的。そしてやはり“デニムオリジンの国”という魅力はありますよね。サンフォライズドという防縮加工を生み出したのもこの国ですから」。
サンフォライズド加工とはチラっと聞いたことはありますが、どういったものなんですか。に
「デニムって洗うと縮みますよね。なので、あらかじめ縮ませておこうという加工です。’50年代までのデニムは水を通すと15%くらい縮むのが当たり前だった。だから、“洗ってはいて”を繰り返して体に馴染ませていったんです。その縮みを3%くらいに抑えるサンフォライズド加工によって、確実なサイジングを選べるようになったというわけです」。
POINT5:
デニムの風合いを決める最重要項目、綿の産地を意識する
「実は、デニム生地の違いは、生地が作られる生産国と同じぐらい、“綿の生産地”によるところが大きい。それには、綿の繊維長が関係します」。
簡単に言うと、繊維が短ければ武骨で味わい深く、長ければエレガントな風合いになっていくという。
「繊維が長いということは、例えるならシャンプーのCMのサラサラロングヘアーのモデルさんのような感じ(笑)。キレイに長い繊維が並んでいるとあのツヤツヤな見た目になるわけです。反対に繊維が短いとザラッとした雰囲気になりますが、味わいは深くなる。男っぽいデニムの経年変化は、短いほうが楽しめますね」。
綿の種類は、どんなものがあるのですか?
「主な産地は、アメリカ、インド、アフリカになります。アメリカ綿の特徴は、良くも悪くも普通な中間的存在。繊維長は中程度で、そのぶん風合いが出やすい。アフリカ綿でいうと、ジンバブエコットンに代表される中長綿がデニムには多く使われます。インド綿は繊維長が長いのでキレイめデニムに向いているといえますね」。
「ほかにも、ニットでお馴染みのシーアイランドコットンがデニムに使われることもあるんです。これはとびきりラグジュアリーな仕上がりになりますよ」。
コットン三大地域のざっくりした特徴をつかめば、デニムの方向性もわかってくる。これを覚えるのは大変そうだ(笑)。
「確かに難しいですよね。でも、ワインのブドウ産地を知るように、綿花の産地を知れば味わいも少し違ったものになるはず。頭の片隅に置いておくとデニム選びが楽しくなりますよ」。
POINT6:
デニムにおける右派と左派。それが分かつ効能を知る
初めてデニムと出会った中高生時代、生地に関しては、「右綾(みぎあや)」とか「左綾(ひだりあや)」なんて言葉を聞いたが、この特徴も実はいまいちよく理解できてないかも……。
「そうですよね。話は細かくなりますが、デニムの織りの方向で生地の風合いが変わるんです。その理由は糸の作り方が関係します」。
糸には、左撚り(Z撚り)と右撚り(S撚り)があり、基本的には左撚りが主流。その場合、撚られた糸のZ字型と同様に、右上から左下に綾目が出る右綾だと糸の撚りが引き締まり硬くなり、逆方向の左綾だと撚りが緩んでふっくらする、という特徴があるんです」。
「左綾のGジャンなんかは柔らかくて、オーバーサイジングに着るのならとてもいいと思いますよ。レディスではふわっとしたシルエットのデニムスカートを作る際も、左綾は優秀ですね」。
生地としてのデニムを深く知ることで、もっとデニムが好きになる、楽しくなる。みなさんもこの知識を頭の片隅に、いっそう楽しいデニムライフを!
小林さん、ありがとうございました!
■PROFILE
小林 学(こばやし まなぶ)●1966年、神奈川県生まれ。ファッションデザイナー。文化服装学院を経てフランスに遊学。その後、フランスに本社を置くデニムメーカーの企画を担当。退社後、日本製デニムの魅力を紐解くべくデニム工場にも就職。1998年に満を持して自らのブランド「スロウガン」を設立。古着やモード、カルチャーへの深い知識を活かした独自の世界観から、熱狂的なファンを抱える。今秋より新ブランド「AUBERGE(オーベルジュ)」もスタート。
【資料協力】デンハム・ジャパン03-3496-1086www.denhamjapan.jp 鈴木泰之=写真(静物) 髙村将司=取材・文