連載:俺のクルマと、アイツのクルマ男にとって車は名刺代わり。だから、いい車に乗っている人に男は憧れる。じゃあ“いい車”のいいって何だ? その実態を探るため「俺よりセンスいいよ、アイツ」という車好きを数珠つなぎに紹介してもらう企画。
【写真12点】「YOUが長年愛し続けてきた『80年代のメルセデス・ベンツ』」の詳細を写真でチェック ■60人目
YOU

東京生まれ。18歳の頃からモデルとして活動する。数多くのテレビ番組やCMに出演し、雑誌のエッセイを手掛けるなど幅広い分野で活躍。ドラマ、舞台、映画出演のオファーも多く、女優としても独自の地位を獲得している。
メルセデス・ベンツ 「230E」

メルセデス・ベンツの「230E」(W123型)。1976〜85年まで生産・販売されていたモデルだ。SOHC4気筒のエンジンを積み、排気量は2297cc。当時のメルセデスを代表するセダンである。
YOUさんの愛車遍歴は独特で、ブレがない。旧車のメルセデス・ベンツのみ。それも70年代中期〜80年代中期に生産された「230E」「500SL」「280TE」を繰り返し乗り継いでいる。
なぜこの年代のメルセデス・ベンツなのか? 免許を取得した当時の話や、現在の「230E」購入時のエピソードなどから、YOUさんの“ベンツ愛”をうかがい知ることができた。
このくらいの旧車がちょうどいい

横長テールランプは雪や水がたまりにくい凸凹デザイン。
撮影時に本人が運転してきてくれたのは、3年ほど前に購入したという「230E」。ワインレッドともえんじ色とも違う、深みのある、美しい赤色である。実は免許を取得して最初に購入した車も、80年代の「230E」だったそうだ。
「ベージュの『230E』で、今乗っているのと同じ型です。最初から今まで、旧車しか乗ったことがないんですよ。当時大竹まことさんが旧車に乗っていて、『私も旧車に乗りたい!』って言ったら、水戸さん(中古車販売店)を紹介してくれたんです。
最初の車は、『230E』か『280TE』がいいなあと思っていたところ、ちょうど水戸さんの店に『230E』があったんですよ。しかも欲しかったベージュだったので、決めました。26歳のときです」。
免許をとって初めての車が、旧車の「230E」。いい車だが、当時の一般的な車選びとは少し視点が違うと思う。
やや大きめのクラシックなハンドルは、しっかりとした握り心地。
「教習所の普通の車に比べて、ハンドルが大きくて重いんです。ドアも重いし。でもしっくりきたんですよね。これだよ、って。当時から旧車の良さは知っていました。周りのお洒落な大人たちがみんな旧車に乗っていたので。ベンツにボルボ、ルノー……。
最初はベンツに乗って、あとでほかの車に変えてもいいかな、なんて思っていました。でも結局、最初から最後までずっとベンツになっちゃっちゃいましたね」。
YOUさんが乗り継いできた、70年代中期〜80年代中期のメルセデス・ベンツ。ずばり、この時代のベンツの魅力とは?
スリーポインテッドスターが誇らしげに輝く。
「いわゆる“縦目”(1960年代を中心に生産された縦型ヘッドライトのベンツ)のような、本当に古いタイプの旧車には乗ったことがないんです。当時『もっと年を取ったら、ハイクラスの、ヴィンテージの旧車に乗ってもいいな』とは思っていたんですが。
でも結局、仕事も子育ても忙しくなっちゃったんですよね。つまり、そういうハイクラスな旧車を愛でるように乗る生活にはならなかった、ってこと。逆に言うと、これくらいの旧車が、私のライフスタイルには合ってたみたい。実用的で、あれこれ気を使わなくていい車」。
セダンの「230E」と、ワゴンの「280TE」。メルセデス・ベンツの質実剛健を具現する名車である。その一方でYOUさんは、ハイクラスな2シーター「500SL」にも乗ってきた。
角形ライトとクロームグリルが落ち着いた表情を作る。
「これまでに2台乗りました。やっぱり『230E』、『280TE』とは全然違いますよね。30歳の頃に1台目に乗って……うん、めっちゃ好きだった。エンジンの音も好きだった。
そのあと『280TE』を挟んで、33、4歳頃に2台目の『500SL』に。妊娠中でも乗っていました。で、子供が生まれてまた『280TE』に戻しました。チャイルドシートとか着けなきゃいけないしね」。
“今のところ”最後の車

そして今YOUさんは再び、免許をとった当時と同じ「230E」に乗っている。
「65歳くらいで運転免許を返納しようかなって、何となく思っていたんです。だから最後は、初めて乗った『230E』に戻ろうと。そんなとき、新たに知り合った中古車屋さんにちょうどこの子がいたので、即買いしました。とってもキレイで、程度が良くて。
で、ずっと私の保険を担当してくれている、車好きの知り合いがいるんです。その方にこの『230E』を見てもらったら、こんな提案をしてくれて。
『びっくりするほどコンディションのいい車です。だからこそ逆に、少し悪いところは全部直しちゃいませんか?』
より長く乗れるように、最初にしっかり直そうと。そこで、とある“レジェンド”のいる工場に修理に出しました。 改めて内部を見てもらいながら、丁寧に修理していただいて……結局この子の“入院”には、2年かかりましたね」。
アメ車製クーラーに換装したこだわりも光る。
とはいえ、2年というのは決して長い期間じゃない。ご存じのとおり、実際に旧車を直せる技術者はどんどん少なくなっている。YOUさんの「230E」を修理したのも業界ではよく知られている工場であり、常に多くの車好きが修理を待っているのだ。
YOUさんにとってこうしたフルレストアは、長い車歴のなかで初めての経験であった。
「車はとことん乗り回して、壊れたら次を買うっていう考え方だったんです。カスタムもしたこともしないですし。ノーマルでカッコ悪い車には、乗りたくないですね」。
レトロなデザインの計器類も、YOUさんの好みにぴったり。
この時代のメルセデス・ベンツを含め、YOUさんはなぜ、旧車に惹かれるのだろうか。
「いわゆるコンピュータデザインが苦手なんですよね。一般的に女子は可愛い車、壊れない車を選ぶものですが……この間占い師に見てもらったんですよ。そうしたら『前世にいろんな人が見えますが。全員男です」って言ってました(笑)。
でも一般的な方々にとっても、旧車は魅力的に映ると思いますよ。この『230E』で信号待ちをしていると、外国人の観光客の方によく写真を撮られます。私と同世代や少し上の方々も、懐かしそうにこの車を見てくれますし」。
内装はベージュカラー。レザー使い、メッキ使いが美しい。
都内の移動には、積極的にこの『230E』を使っているという。だが、長時間のドライブは避けているそうだ。
「この子に長時間働かせるのは、何だか、かわいそうな気がして、都内の自宅から地方のコストコに行くのが最長かな。
運転中に音楽を聴くかって? はい、聴きますよ。最近はジャンナビっていう、韓国のアーティストが気になっています。なぜ知ったのかというと、韓国の恋愛リアリティ番組内で、若い恋人たちが聴いていたので。
厚みのあるクッション。上質なソファのような座り心地だ。
もちろん洋楽もJ-POPも聴きますが、今はSpotifyで、韓国の音楽を聴くことが多いですね。ロックもヒップホップもなかなかカッコいいですよ。とはいえ、それほど詳しいわけじゃないですが。
昔は遠乗りもしたんですけどね。箱根の高速道路の途中で止まっちゃったりして。『500SL』のとき。でも今は無理かなあ。もし途中で止まったら、大変すぎるから。この『230E』のコンディションならもちろん遠乗りできるんだけど、してないなあ。あのドライブの景色、いつかこの子にも見せてあげたいなあ」。
優美なラインを描く全長4725㎜のボディ。
そんなふうに語る言葉のとおり、YOUさんにとって旧車のメルセデス・ベンツとはきっと、我が子同然の存在なのだ。旧車のベンツに無償の愛を注ぎながら、YOUさんのカーライフは「230E」に始まって、「230E」に終わるのである。
「でも私、結構言うこと変わるからね(笑)。今のところ最後の車、ってことで」。
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