ポルシェ 928の“サーフタクシー”
タデウシュ・エルワルトはハウピ6キャンプ場のマネージャーでもある。
当然、彼自身も波に乗ることが大好きだが、同時にポルシェも愛していた。
外の世界を遮断するように海が周囲を囲む小さな村で、幼い頃からガレージに父のポルシェがあったら、その世界に引き込まれるのは避けようのない宿命だろう。
毎日のように海とガレージに佇むポルシェ928を眺めていた、キャンプ場のマネージャーでもあるこの若者は、あるアイデアを思いついた。
ビッグウェーブが来たらすぐビーチまでお客を(ときに自分も)送り届ける“サーフタクシー” があれば面白い、と。
サーフボード用のルーフキャリアやフロントグリル&ルーフにスポットライト、牽引フックが装着されている。
とはいえ、ギアボックスやディファレンシャル、サスペンション等をどう調整すればよいか。メーカーであるポルシェでさえ、最近ようやくオフロードも走れる911(911ダカール)をリリースできたほど、砂浜を走れるクーペを作るのは難しい。
ましてや約20年も前に生産が終了している928をポーランドの片田舎で、どうやればサーフタクシー化できるのか。
救いを求めて彼が声をかけたのは、天才エンジニアでありラリードライバーでもあるトマシュ・スタニシェフスキだ。トマシュはちょうど自作のポルシェ924でクラシック・ダカール・ラリーを完走したばかりだった。
次のビッグウェイブを待っている928 サーファリ。
928と924は、911と違ってともにフロントにエンジンを置いて後輪を駆動させるFRレイアウト。とはいっても、サスペンション形式も違えばエンジンも異なる(924は直列4気筒、928はV型8気筒)。
天才トマシュをもってしても、928のサーフタクシー化は困難を極めたという。それでも彼は、「サーフィン魂を宿した928」を作るための解決策を見つけていった。
こうして出来上がった「928 サーファリ(Surfari)」。初お披露目の場は、数年前に自ら主催して始まった地元のイベント「ヘルライダーズフェスティバル」だった。
ラリーカー風ではあるが、車内にロールゲージは組まれていない。
クラシックカーやバイク、サーフィン、スケートボードの愛好家が集うこのイベントで、初めて人々の目の前に現れた928 サーファリは、その後ドイツのジルト島(ハウピと同じく、美しいビーチがある)で開かれた空冷ポルシェのフェスティバルに参加。
さらにデンマークのレム島に向かうと、そこで928 サーファリと自然とのつながりを体感するかのように、ビーチを駆けめぐったという。
砂浜でお尻をスライドさせながら疾走する928に乗ってから波に乗る、なんて想像するだけで気持ちよさそう。
もしもポーランドでサーフィンを楽しみたいと思ったら、行き先候補にハウピのビーチも加えてみよう。美しいビーチで波に乗れるだけでなく、ビッグウェーブへ向けて疾走する928 サーファリにも乗れるかもしれないから。