半年でミシュラン獲得の元エチェバリ前田哲郎氏と筆者
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。 スペインでミシュランの星が最も多く集まるバスク地方―その起点となるサンセバスチャンやビルバオからも離れた人口100人ほどの小さな村アシュペは、世界中の美食家が足を運ぶ旅の目的地だ。
前田哲郎氏は、村のレジェンドである「エチェバリ」オーナー・ビクトル・アルギンソニス氏のもとで薪焼きの技術を学び、スーシェフとして10年働いた後に独立、2023年5月に自身の店「Txispa(チスパ)」を同じアシュペ村にオープン。その半年後にミシュランスペイン版で一つ星を獲得、日本人ではスペイン最速という快挙を成し遂げた。
今や「スペインで最も有名な日本人シェフ」とも称され、海外や日本での評価をますます高めている前田氏。幸運にも、ミシュランスペイン版発表から5日後にお店を訪問、前田氏に話を聞くことができた。スペイン語も話せぬまま移住した異国の地での苦労、日本人が海外で結果を出すための必須スキルとはー。
アシュペ! と村の前が呼ばれ、「ステージまで走った」
──このたびはミシュラン一つ星おめでとうございます。受賞後どんなお気持ちでしたか? いやー、嬉しいですね。店の名前と自分の名前、何より「アシュペ!」と村の前が呼ばれたことが嬉しかった。その村を代表してここにいる、という実感が湧いてきて、知らない土地で移民として頑張ってきた十数年が報われる思いでした。ステージまで走っていっちゃうくらい動転していました(笑)。
──今日もレストランの周りに見物客がたくさんいて、注目度の高さを感じました(笑)。ミシュランは、前田氏にとってどんな存在ですか? 今回の一つ星という評価が、僕に社会的な人格―「自分がプロの料理人である」という自覚を与えてくれたと思います。よく自己とか自我って何だろうと考えるんですが、例え「僕が前田哲郎です」「僕はシェフです」と必死に訴えても、誰からも反応がなかったら自己を認識できないと思うんですね。そういう意味で、ミシュランは社会からのアンサーバックであり、社会的に認められたことが嬉しかったですね。
コースはキッチンから始まる。インタラクティブなプレゼンテーションが印象的。
6テーブル24席の店内。築400年の石造りの一軒家を改築。
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