オリジナリティは「自己」というフィルターを通して出てくるもの
──エチェバリで長年働かれ、スーシェフとして様々なお皿も考案されていました。エチェバリやビクトル(創業者でもあるオーナーシェフ)
という存在は、前田さんの中でも大きな存在だと思います。ビクトルから学んだ大切なことは何でしょうか? 一番は、「ごまかさないこと」ですね。「本当はこうしたいけど…」と思いながらも妥協してしまうことって、誰しもありますよね。例えば、本当に美味しいのは生のまぐろだけど、冷凍を使うとかね。現実と折り合いをつけないといけない部分もあると思います。でもビクトルは違った。
「本当にそうなら、そうする。妥協するなら、やらない」んです。ストイックなまでの愚直さを学びましたね。受賞を受け、僕の好きなワインを持ってビクトルにお礼がてら挨拶に行ったのですが、とても喜んでくれました!
使いやすいように細部にまでこだわって特注したJOSPER製の薪焼き台。
名物のパラモス産の海老も、エチェバリとの違いが楽しい。
──今回頂いたコースには、ここでしか食べられないオリジナリティがあると感じました。日本のアイディアと地元の食材の組み合わせが、懐かしくもあり新鮮で、不思議な感覚でした。 今回一つ星を頂けたということは、「エチェバリのコピー」ではなく、「オリジナリティがあり、それがいいレベルにある」とミシュランが認めてくれたと思っています。やはり僕はどこまでいっても日本人で、自分が育ってきた日本というベースは誰にも否定できない。そのルーツをきちんと表現できる料理をしたいと思っています。
日本人が食べると、安心する旨味がちゃんとある。でも、食材はこちらのものなので、やはりどこか違う。バスクの人が食べると、「地元の食材だから知っている味だけど、こんな風に食べたことがない」という驚きがある。それが僕がここで13年間生きてきたリアルだし、僕にしかできないことだと思っています。
料理はおまかせコース250€のみ。八寸と14皿を、4時間かけてゆっくり楽しむ。
鮪と米煎餅、中に焼きナスのマリネ。外国人客からも「Sushi!」と歓声が上がった一皿。
──前田さんにとって料理とは何ですか? 僕にとっての料理は、「自分」というフィルターを通したときに、出てくる一筋の水のようなものだと思うんです。例えば「哲郎」という大きな漏斗に、その土地の要素だったりそこでの経験だったり様々な要素を詰め込んだら、何が出てくるかと考えます。
洗面台いっぱいに水を張って栓を抜くと、あるところから渦を巻いて急速に流れていく瞬間ってありますよね。料理も同じで、色々な思考が、すっと料理にまとまって落ちていくポイントがあるんです。その瞬間は、すごく感じるものがありますね。
3/5