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2023.02.25

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ハワイ初のレコードバーは、渋谷の“あのバー”にインスパイアを受けて始まった!


ホノルルにある2軒の飲食店「EP Bar」と「Namikaze」では、ヴィンテージっぽさが漂い、好みを重視した飲食体験を堪能できる。「EP Bar」の店主ミヤシロさんは渋谷のあるバーへ訪れた際に衝撃を受け、地元ホノルルのチャイナタウンにハワイ初のリスニングバーをオープンさせた。
「Namikaze」についてはこちら
当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら。 

戦後、1950年代の東京では、レコードを手に入れるのは贅沢なこととされた。当時、リスニングバーは、音楽好きな人が、音響設備の整った環境で、落ちついてジャズやクラシックを聴ける場所だった。喫茶店では、コーヒーやお茶を飲みながら、店主が客と一緒に情熱を分かち合った。

やがて、店は夜遅くまで営業し、酒類を提供し、エッジの効いた音楽ジャンルを演奏するようになる。ホノルルのチャイナタウンでは、ライアン・ミヤシロさん、クリス・ナカノさん、ダニエル・ウンさんの3人が2022年1月にこの形式を取り入れ、ハワイ初のリスニングバー「EP Bar(イーピーバー)」をオープンした。

ミヤシロさんは、東京の渋谷区にあるバー「JBS(ジェイビーエス)」に初めて訪れたとき、その魅力にとりつかれた。小さな店内には、床から天井までレコードがびっしりと並び、オーナーである小林カズヒロさんを中心に、ファッションクリエイターが集まっている。

白髪にメガネ姿の小林さんは、飲み物を提供しつつ、2台のターンテーブルを同時に使って90年代のヒップホップをかけていた。



「飲み物を頼んでもリクエストは受け付けないんだ」とミヤシロさんは振り返る。「文字どおり、ハイボールやビールを提供するだけだったね」。

一番心を動かされたのは、流れていたレコードだ。その曲は、ヒップホップデュオのピート・ロック&C.L.スムースの「カーメル・シティ」だった。

「ああいう光景を見て、『すげー!』って感動したんです」とミヤシロさんは話す。「しかも、アメリカじゃないところで? ここはニューヨークでもない、日本なんですよ。『まさしく、今までお目にかかったことのないような、イケてる場所だ』ってね」。

「EP Bar」では、「サウンドセレクター」と呼ばれるDJたちが、レコードアクセサリブランド「マスターサウンズ」のターンテーブルとミキサーを使ってプレイリストを管理している。古風な雰囲気を出すために、見た目はヴィンテージでも、現代の技術が詰まった濃いオレンジ色のJBL製スピーカーと、1970年代のマッキントッシュのアンプとレシーバーを再生した中古品を購入した。

歴史を感じさせるレンガ造りの壁とアーチが、琥珀色に輝くふたつの蒸留酒の棚を囲み、中世の雰囲気を醸し出す。「EP Bar」が目指す、隠れ家的な巣窟っぽい雰囲気にぴったりだ。店内の空間は、東京のレコード・リスニング・バーから着想を得たという。

プレイリストは折衷的で、よく行き届いており、チャイナタウンのコミュニティーの関心事になっている。書店「バスブックストア」の共同経営者であるトラビス・セサキさんや衣料品店「シグオンスミス」の従業員であるカマウ・フェンさんなど、近隣で馴染みのある面々がDJとして毎週登場し、ジャズからハワイアンまで、あらゆるジャンルの曲が流れる。 



クラフトカクテルのメニューには、「バー・レザー・エプロン」と「バー・マゼ」のジャスティン・パークさんが手がけたハイボールや、ヘッドバーテンダーであるサマンサ・トラスティさんが黒ゴマにバーボンを注いで作ったカクテル「シグネチャーオールドファッションド」などがある。

ここでは、フォアローゼスやメーカーズマーク101など、ホノルルのほかのバーでは扱っていないような蒸留酒を揃えるようにしている。ハワイのバーではまだ馴染みの薄いナチュラル・スパークリングワイン「ペトナ」もあるのだ。

「スニーカーのストリートカルチャーで育ったので、私は限定ものには目がないんです」。ミヤシロさんはそう話す。

彼いわく、日本では多くのリスニングバーが、会話や写真撮影を禁止しているという。一方、「EP Bar」の趣旨は、座って音楽を聴いてもらうことで、禁止するのは無理な話だとわかっている。

「そうはいっても、ここはアメリカだから、みんな好き勝手やっているわけですよ」と笑いながら説明する。

「友達とおしゃべりをしたり、自撮りをしたりしても、ここでは誰も怒りません。そういう行為を止めはしないし、我々らしいものを提供したいんです。我々の家に来たみたいな感覚で、ね」



私は、ミヤシロさんと一緒に笑った。だが、それだけにはとどまらない。アメリカの個人主義的な態度、つまり「私は自分のやりたいことをやる」という信条が、たとえハワイであっても、アメリカ人がさまざまなあり方を探り、受け入れることを残念ながら妨げる可能性があるからだ。

とはいえ、彼の「家」に対する思いには共鳴するものがあり、ヴィンテージものが本質的に重要なのは、それが私たちの過去を描き、喜びの部分に再び火をつけるものだからだと感じた。

“古きものは良きものだ。ヴィンテージのアロハシャツを着たり、クアキニ通りのリリハベーカリーのカウンターに座ったりする理由は、そこにある”
サラ・バーチャード

ミヤシロさんにとって、人生を変えた休暇に訪れた、大好きな場所と時間を再現した「EP Bar」も同様で、バーのスツールに座った私は、かつてパンクロックが好きで、レイブパーティに出かけるヒッピーでミュージシャンだった10代の娘に戻れるのだ。

「EP Bar」は現代的な要素を取り入れて新しい世代を呼び込んでいるが、その根っこにあるのは懐かしさであり、たびたび足を運んでしまう。というのも、単なるリスニングバーではなく、つかの間の次元へとつながる扉になっている。

そして、私たちが今この瞬間だけに存在するのではなく、過去から丁寧に集めてきた思い出の食事や歌、そして過去という瞬間にも存在していたことを思い出させてくれるからだ。


This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

サラ・バーチャード=文 マーク・クシミ=写真
神原里枝=翻訳

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