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2018.04.12

あそぶ

旅するモデル・大石学が、世界一周で得た旅の“成果”とは?


特集「男はどうして旅に出るのか?」
 なぜ旅は、いつの時代も男心をかき乱すのか。現在42歳の人気モデル・大石学は5年前、428日かけて48カ国を巡る旅をした。我々が休暇で出かける旅を凌駕するそのスケール。彼にとっての旅とはいかなるものか。どんな旅の日々を過ごしてきたのか。旅立つ時、彼は仕事へのモヤモヤを抱えていた。旅の終わり、それはどんな決着を見たのか。男の人生における旅のあり方を問うインタビュー。大石学の旅の話、その3回目。
>旅するモデル・大石学さんのインタビュー記事を最初から読む

旅して体験してきたからこそわかる世界の話

「ドバイは意外に暮らしやすい」らしい。世界中のセレブが集まり、オイルマネーをベースに開発が進む街として知られるが「庶民が暮らしてる市街地は“普通”なんですよね。宿泊費もヨーロッパよりはるかに安いし、300円ぐらいでお腹いっぱいになる食堂もある」。それが世界屈指のホテルやレジャー施設と同居している面白さ。はたまたスイスのリゾート地・ツェルマットの居心地も良かった。「名峰マッターホルンでよく知られる町で、オリンピアンも練習に来るらしいんですが、大気汚染を防ぐために自動車の乗り入れが禁止されていたんです。それで町を走るバスとタクシーはすべて電気自動車。すごく素敵でした」。
ノルウェーではオーロラを見た。「でも物価が高くて。話のタネにはいいけれど、本当びっくりしました」。ノルウェーの北部では500mlサイズのコーラがスーパーで450円、ビールのロング缶はホテルの価格で1400円。あまりの高さに、ホニングスヴォーグの市街地から徒歩30分のドミトリーを選んだほど。
旅に出ると、だんだん旅のモードになる。東京では気づかないことを意識するし、価値観もちょっと変わってくる。いつもの生活では気づかないことを意識できるようになる。東京ではしないこともする。
「ただ旅の間でも、“今日はいい日だったな”とか思う基準は、普段の生活と変わりません。結局はそこで“誰と何をしたか”。それが楽しくて思い出に残る1日ならば、満足できますよね。旅先を好きになるかどうかって、わりと単純なきっかけなんですよ。食べ物がおいしいとか、そこで出会った人たちが素敵だったとか」。



エクアドル・ガラパゴス/個人旅行者が自由に行けるサンタクルス島・バルトラ島・サンクリストバル島を堪能し、観光ガイドと一緒でなければ上陸できノースセイモー島へ。アメリカグンカンドリのは、大きくお腹を膨らませ、雌に求愛する。
 

郷に入っては郷に従え。文化を味わい、環境に染まる

アジアから中東を経てヨーロッパを旅したあいだは髪を切らず髭も剃らず。1年近く放置したため、完全に野人化。なんか気持ちがわかる。身だしなみを放置できる時期なんて、人生にはそうはない。エジプトからニューヨークへと渡る時に、「単純に見た目がやばくて」さすがに軽く整えた。アラブからアメリカに入国するのに、余計な詮索をされないための配慮でもあった。
「旅に出ると、やっぱりその国の、その町の文化を浴びたいんですよね。アジアで地元の人に愛される店でご飯を食べたり、自然に恵まれてるところではできるかぎりトレッキングしたりバイクに乗ったり、ロンドンではミュージカルを見たし、ニューヨークでは地元在住の友人のアテンドでちょっとおしゃれなレストランにも行きました。基本、節約旅行でした。ヨーロッパではできるだけ外食もせずに、宿のキッチンで適当に自炊。僕、普段全然料理しないので、本当に文字どおり“食えればいいや”って感じのゴハンでした(笑)。そんな感じだったので、ジャケットも持ってなかったし、ニューヨークでも見映えが悪くない程度のアウトドアブランドのアウターで、だいたい乗り切りました」。
旅のなかで最高に美味しかった料理はチェコの「スヴィーチコヴァー」。柔らかく煮た牛ヒレ肉に、甘めのシチューとクランベリーソース、ホイップクリームを合わせ、「クネドリーキ」という白い蒸しパンと一緒にいただく。東京でチェコ料理の店2軒に行ってみたが、ありつけなかった。
物欲は決して弱いほうではない。でも我慢。節約はもちろん、荷物の軽量化のため。唯一買ったのは「マグネット(笑)。地名の入ったものとか、名所がモチーフになったもの。あとはいろいろな都市の地図と、その国で使った紙幣。お土産といえばそのぐらいかな」。
大石が実際に南極に行った時に手に入れた南極の地図。上陸し、活動できるエリアがアップで掲載されている。
あとは大量の写真だ。世界一周にはニコンのデジタル一眼レフを持参。撮影だけでなく機材も大好きなので、デジタルだけでなく、実家で発掘してきた古い銀塩やプラウベルマキナ67という蛇腹の中版カメラも旅には連れて行く。
「世界一周の時はデジタルだけでしたけど、それ以降はアナログでも撮って、ポジフィルムはスキャンしています。お酒を飲みながら見返すのが至福の時なんですよね。不思議なもので、旅から帰ってきた時に見て今ひとつピンとこなかった写真が、何年か経つと“いいじゃん!”って思うことも結構あるんですよ」。
ボリビア・ウユニ塩湖/世界一周の旅、最大の目的。東京を発って約13カ月後の新月を目指してやってきた。ジープをチャーターして日中にアプローチし、サンセットツアー&星空ツアーに参加。23時頃に終わった後、宿で仮眠し、夜中3時発の星空サンライズツアーにも。滞在中、都合6回ウユニ塩湖にはアタックしたという。
大石さんの旅の写真を見せてもらうと、大石さん自身の撮影はもちろん、世界の絶景をバックに彼がナイスな構図で写っているもものも多数ある。ポーズもきっちりキマっている。同行した日本人や現地の人にシャッターを押してもらうのである。まずは自分でファインダーを覗いて“いいアングル”を決めてから「この角度でこんなふうに撮って」とオーダーすることも少なくない。そして、時には撮り直しをお願いしたりする。そこは、さすがプロなのである。
 

自分では旅で何を得たのかはわからない。だが……

モデルを生業として37歳になって、将来のビジョンをきちんと持ちたい……と世界一周の旅に出たが、明確な答えを得ないまま日本に帰ってきた。南極にまで至って「なんとなくもう日本に帰ってもいいかな」と実感したから。



南極/アルゼンチンからツアーでアプローチ。世界でもっとも荒れるというドレーク海峡を3日もかけて渡らねばならない。すべてが静かで、シャーベット状の海を小さなボートで行くツアーではシャリシャリという氷の音が聞こえたらしい。「氷河も氷山もすごく、ジェンツーペンギンのかわいさたるや!」。
帰国後、すぐには社会復帰できなかったという。
「旅の前からレギュラーでやってた仕事はちょっとやって。それ以外は友達のお店をたまに手伝うぐらいで、半年ぐらいフラフラしてましたね」。
チリ・イースター島/世界一周の最後に訪れた場所。15体のモアイが並ぶ「トンガリキ」へは、馬を避けつつ徐行運転でアプローチ。基本お土産を買わないという大石だが、ここでは島の石で作られれたモアイの置物を手に入れた。
428日・48カ国、そんなふうに総括できるのは、旅が終わって帰ってきたからこそ。旅の期間も、どの国に訪れるかも厳密には決めていなかった。帰るまではいつでも“旅の途中”。もっと早く帰る可能性も、もっと延びる可能性もあった。でも大石さんは、南極で「もう帰ろう」と決めたのだ。
世界一周の旅を終えて丸4年、大石さんは今もモデルの仕事をしている。旅のあと、意識や表現方法に変化が訪れたか尋ねると、「気持ちは楽になったかな」と言った。すごく穏やかに、すごく普通に。
「僕は旅をして、結局考えも定まらないままモデルの仕事に復帰しました。少しずつ声をかけていただいて、なんだかごくごく自然に。ただ、“今後自分はどうしていったらいいんだろう”っていうモヤモヤは、“そんなの、もういいんじゃないかな”って思えるようになりました。うん、今はすごく楽に仕事ができているかな」。
間違いなくそれが旅の成果。オーバーフローしそうになっていた仕事へのモヤモヤを“もういいんじゃん”って、余裕で受け入れることができるぐらいに“器”が大きくなったのではないだろうか。
「いやあフワフワ生きてるもので……」と、大石さんは笑う。でもそれが彼の魅力。1年3カ月がかりの、いわば大事業にことさらに結果を求めず、いるべき場所にすんなり収まって泰然としている。

間違いなくそれが旅の成果。
そうそう、はっきり目に見える「旅の成果」もひとつあるのであった。
「もともと18歳ぐらいから知り合いだったんですけど、旅の終わりぐらいになぜか連絡を取るようになって。帰ってきてから十何年ぶりぐらいに会って。よく遊ぶようになって……」
帰国後、大石学は結婚したのであった。
【Profile】
大石学
1975年、大阪市生まれ。甲子園を目指し主将を務めた岡山・作陽高校を経て、20歳の時モデルとして本格的に仕事を始める。雑誌のみならず、「LANVIN」「John Varvatos」などのコレクション、テレビCMなどでも活躍。趣味はバイク、トレッキング、マラソンなど。旅先でも度々荒野を爆走する。
・大石学 オフィシャルインスタグラム(@gaku10 )
取材・文=武田篤典 撮影=稲田 平
 
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