男はどうして旅に出るのか? Vol.6
2018.03.23
LIFE STYLE

世界的ヨットマン・白石康次郎「ゴルフのほうが得意」。えっ!?

特集「男はどうして旅に出るのか?」
なぜ旅は、いつの時代も男心をかき乱すのか。年を重ねると、長旅に時間を割くいとまもないかもしれない。しかしそこには紛れもなくロマンがあり、胸を熱くする体験が待つに違いない。七つの海を股に掛け、ヨットによる単独世界一周を三度も成し遂げた海洋冒険家・白石康次郎は、50歳を迎えながら、世界最高峰と言われるヨットレース『ヴァンデ・グローブ』への挑戦を続ける。彼の声に耳を傾けてみよう。そこに男と旅の関係性を紐解くヒントがきっとある。男なら心躍らずにはいられない海と人生の冒険譚、第二回目。

「自分で決めなさい」という教えで、50年変わらず来た

「オレはうちの親父に『自分で決めなさい』って教わってきました。反対されたことは一切ない……賛成されたこともないけど(笑)。ずっと尊重されて育てられてきた感じがします。そうすると、子供は“おそれ”を知らなくなるんだよね」。

稀代のヨットマン・白石康次郎が生まれたのは、1967年神奈川県鎌倉市。海の見える町に育ち、小さい頃から海が大好きだった。小学校のとき、お受験。地元の名門・横浜国大鎌倉小学校に入学。中学まで付属校ライフを展開する。

「まあ、賢かったのは周りだけだよ。だって入学試験じゃなくてくじ引きだもん。くじ運が良かっただけ。付属に入ったのは、母親の意向が強かったのかな。親父は一切ああしろこうしろって言わない人でした。だから中学のとき、船に乗りたくて進路に水産高校を選んだときも何も言わなかった。付属から水産高校って前代未聞だったらしくて、先生は泣いてたけどね(笑)」。

世の多くの人々は、成長するにしたがって立場や年齢にふさわしい態度を求める。「もう中学生なんだから」「せっかく付属に行ったんだから」「今までと同じ考え方じゃ通用しないよ」……などなど。白石家では世間にロールモデルを求めなかった。唯一示されていたのは「自分で決めなさい」。そして言外に「決めたことには自分で責任を持ちなさい」も含まれていたのだろう。

ヨットの道に進むことも、自分で決めた

大型船の機関士を目指していた白石は、高校在学中の1983年に「BOCレース」という単独世界一周ヨットレースで多田雄幸の優勝というニュースに接する。これに感化されてヨットでの世界一周に目覚めるのだ。

「すごい衝撃でした。俺がやるのはこれしかないと思ってね。多田さんの弟子になろう、と。で、東京駅に行きました。公衆電話に備え付けられていた電話帳で“多田雄幸”という名前を探して、電話口で『弟子にしてください!』って。多田さんの家に押しかけて直接頼み込んで、弟子にしてもらったんです(笑)」。

白石康次郎23歳のころ。左が師匠の多田雄幸。タクシーの運転手をしながら国際的なヨットレースに挑戦し続けていた
白石康次郎23歳のころ。左が師匠の多田雄幸。タクシーの運転手をしながら国際的なヨットレースに挑戦し続けていた

多田さんに入門したのは16歳。親の顔色を見たり、アドバイスを仰いだりすることなく「俺はこれなんだ!」と自分で決めて自分で動く少年に、白石康次郎は成長していたのだ。そしてそれが今や生涯をかける仕事に。

「いや、ていうか“好き”なだけ。俺、これまで世界三周してるけど、正直、体質的にはめちゃくちゃ船酔いするんです(笑)。向いてるかどうかで言えば、むしろゴルフとか野球のほうが才能あるんだよ。圧倒的に“球を遠くへ飛ばす能力”には恵まれてると思う。子供の頃からホームランバッターだったし。何よりそれに気づいたのは、テレビ番組のゲストで石川遼くんと一緒にラウンドしたときかな。ポーンって打ったら、俺、遼くんより飛んだんだよね(笑)」。

ドライバーの自己ベストはなんと383ヤード! でもそんなこと関係ないのだ。船酔いするし、操船技術に関しては、みっちり仕込まれた中学生にも劣るというけれど、圧倒的に「好き」なのは、ヨット。根底にあるのはそれだけ。

自分で決められなくなる「環境」に飲み込まれるな

「自分が好きだし、みんなで楽しくやりたいだけ。だから子供の頃からスタンスは変わってないんだと思う。“好きなことばっかりやっちゃダメ”だって大人は言うけど、好きだから続けていけるんです」。

好きだから行く、人生を旅になぞらえたとき、白石ならばそう考える。裏を返せば、そうでなければ旅に出る意味なんかない。強烈な「好き」はあらゆる苦しみを凌駕するのである。

「逆にヨットなんていつやめたっていい。アスリートにしても冒険家にしても、こわいのは、周囲に踊らされること。すごいことを成し遂げたら周りに“もっともっと”って言われるようになるんだよ。それで、本来持っていた目標とかスタンスからどんどん離れる。俺にはそれはないと言いきれます。好きでやってるだけだから、嫌いだと思ったら今すぐにでもやめられるよ(笑)。でもまだ当分、今のところはヨットが大好きだね。新艇を用意したから、明日から世界一周してくれって言われたら、すぐに旅に出られる。その準備はいつもできてるよ」。

【Profile】
白石康次郎
1967年、東京生まれ鎌倉育ち。三崎水産高等学校(現・神奈川県立海洋科学高等学校)在学中に故・多田雄幸氏に師事。1994年、ヨットによる単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立。2006年単独世界一周レース「5OCEANS」クラスⅠ(60フィート)で2位入賞。16年には単独世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローヴ」にアジア人として初出場。児童養護施設への支援活動やボランティアにも長年従事。
http://www.kojiro.jp/index.html

取材・文=武田篤典
撮影=稲田 平

 

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