2019.06.20
WATCH

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」の、持ち手の器量を試してくる凄み

時器放談●マスターピースとされる名作時計の数々。そこから10本を厳選し、そのスゴさを腕時計界の2人の論客、広田雅将と安藤夏樹が言いたい放題、言葉で分解する。9本目はオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」。

安藤 腕時計界のマスターピースについて語る「時器放談」も残すところ2本になりました。オーデマ ピゲのロイヤル オーク。これも外せない名作かなと思います。

スゴい時計【9】
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」

オクタゴン型のデザインがアイコニックな「ロイヤル オーク」。1972年に誕生したとは思えないほどモダンだ。「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン」チタンケース、39mm径、自動巻き。365万円/オーデマ ピゲ(オーデマ ピゲ ジャパン 03-6830-0000)

広田 オーデマ ピゲといえば、やっぱりこれですよね。

安藤 とにかく売れているようですね。モデルによっては常に品薄状態です。この時計を語るのに外せないのが、著名ウォッチデザイナーのジェラルド・ジェンタがデザインした時計ということだと思います。

ロイヤル オークをデザインした故ジェラルド・ジェンタ氏。

広田 あ、そう、僕ね、ひとつ自慢できることがあって。生前のジェラルド・ジェンタに公式インタビューした最後の人間なんですよ。だから何って言われたらそれまでなんですけど(笑)。

時計ジャーナリストの安藤夏樹さん
安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。

安藤 世界中のジャーナリストの中の最後ですか? それはマジすごい。僕の3大“会ってみたかったデザイナー”のひとりですよ。エットレ・ソットサスにディーター・ラムス、ジョルジェット・ジウジアーロにジェラルド・ジェンタ。

広田 4人いますけど……。

安藤 まぁ、それくらい会ってみたかった人物。ジウジアーロには会ったし、ラムスは生きてるからまだチャンスがあると信じているんですが、ほかの2人は間に合わなかった。ジェンタはフリーのウォッチデザイナーですが、これってかなり珍しい存在ですよね。ほかにもいますかね、こういう人。ヴァシュロン・コンスタンタンのオーバーシーズの原型になった「222」をデザインした、ヨルグ・イゼック?

広田 とか。エディ・ショッフェルとか。ショッフェルはエベルのウェーブを作ったり、タグ・ホイヤーやブライトリングでも仕事した人です。

NEXT PAGE /

ジェラルド・ジェンタのスゴさはどこにあるのか?

安藤 フリーのウォッチデザイナーが少ないのは、やっぱり「機械ありき」でデザインが進むからなんでしょうか?

広田 そうです。今でこそシャネルのように、デザインを先にしてそれに合わせて機械の設計を行うブランドも出てきてますが、やっぱり普通は機械が先。ジェンタ自身も取材のとき、ムーブメントを見てデザインをすると言っていました。

安藤 限られた条件の中で多くの歴史的名作を残したジェンタは、やはりすごいです。ロイヤル オーク以外にも、パテック フィリップのノーチラス、IWCのゴルフクラブ、オメガのスピードソニック、日本だとクレドールとか、挙げたらキリがない。で、そんなジェンタがデザインしたロイヤル オークの魅力はどこにあると思いますか?

広田 大雑把な言い方をすると、ロイヤル オークはデザインとして“どこでも使える時計”を初めて具現化したものなんじゃないかと思っています。以前、サブマリーナを紹介した回で、ロレックスは使う場所を選ばないという話が出ましたけど、ロイヤル オークの場合は、生まれながらにしてそれを狙って作られたんです。しかも格式高く。

安藤 今でこそラグジュアリースポーツウォッチってジャンルがあって、スポーティなのに高級感がある時計って多いですけど、ロイヤル オークはその走りですかね?

広田 まさに走りです。時計のデザインにおいて、カジュアルかどうかを決める要素はいくつかあります。わかりやすいのが、ベルトを固定する「ラグ」、風防を固定する「ベゼル」、時間を示す「針」や「インデックス」。これらが太ければ太いほどカジュアルでスポーティ、細ければ細いほどフォーマルでドレッシーなんです。普通は太いか細いかのどちらかに寄せるんですが、ロイヤル オークはこれを巧みに混ぜて使っている。

安藤 確かに、ベセルはかなり太く力強いのに、針やインデックスはドレスウォッチのように細い。

広田 そしてラグはなくしてしまいました。固定概念を打ち破ることでロイヤル オークは生まれたんです。

安藤 1972年にファーストモデルが発表されていますが、当時は相当インパクトあったでしょうね。誰もが認める正統派ブランドから出た異端児。もともとのオーデマ ピゲ愛好家からはけっこう反発があったんじゃないでしょうか。

広田 あったでしょうね。だから最初はまったく売れなかった。サイズからしてケース径が39mm。今なら普通ですけど、当時としてはかなり大きかった。35mm以上の時計なんてほとんどなかったし、40mm近いのは一部のダイバーズウォッチのようなプロフェッショナル向けだったので。

安藤 パネライみたいな?

広田 そう。だからなのか、イタリアでは多少売れたみたいですけど。

安藤 それでも作り続けている間にジワジワと?

広田 ですです。プロダクト先行でマーケットがついて来た。どんなシーンでも使えるという点はやっぱり強いんです。「一本くん」にとっては最高の選択肢になったんだと思います。

安藤 一本くん?

広田雅将(写真左)●1974年、大阪府生まれ。腕時計専門誌「クロノス」編集長。腕時計ブランドや専門店で講演会なども行う業界のご意見番である。その知識の豊富さから、付いたあだ名は「ハカセ」。

広田 高額のいい時計を使い倒す人のことを愛好家の間ではそう呼びます。アメリカだと「One watch fits all」っていうような言い方をしますけど。そして、そういう人はカジュアルにもビジネスにも使える万能時計が好きなんです。ロイヤル オークはプロフェッショナルダイバーのような防水性はないし、2針のドレスウォッチほどのフォーマル感はないけれども、一般の人の生活を考えれば間違いなく万能時計。ポロシャツにも似合うし、ダークスーツでもしっくりくる。

安藤 僕は“百本くん”的な生き方なので、逆に憧れるな一本くん。片付けコンサルの“こんまり”にも誉められそうだし。

NEXT PAGE /

傷だらけは、格好悪い!?

広田 でも、どこでも使える半面、持ち手の器量を試される時計でもあると思うんです。スポーツウォッチとはいえ、そこはラグジュアリーな存在ですから、傷だらけだと格好悪い。かつて某有名雑誌で「ロイヤル オークは傷だらけで使うのが格好いい」といった記事がありましたが、僕は反対です。

安藤 ……目の前にある僕のロイヤル オークは、半端なく傷だらけですけどね。

広田 ……安藤さんはいいんです、それで(笑)。

安藤 なぜ僕だけ許されたのかは分かりませんが、言い訳しとくと僕のはヴィンテージで買ったので、傷はもともとついてたんです。正直、最初手にしたときに「この時計の前の持ち主はどんな壮絶な人生を送ったんだろう」と考えました(笑)。それくらい強烈な傷。でも、確かに街中でもときどき傷らだけの時計してる人っていますよね。普通の生活では絶対につきそうにないくらいの激しいヤツ。

広田 いますいます。

安藤 自販機のジュース取るときとかに、平気で時計しているほうの手を突っ込んじゃったりしちゃうんだろうな、傷だらけの時計をしている人は。

広田 左手突っ込みたいなら、ほかの選択肢があるわけで、ロイヤル オークじゃないでしょう、と。そう考えると、この時計は、する人が「時計を丁寧に扱える人かどうか」を判断できる踏み絵のような存在なのかもしれません。ロイヤル オークのように表面に筋目を入れたケースは一般的に傷がつきやすい。だからこそ、この時計をどう使いこなしているかでその人となりが判断できます。

安藤 なるほど……どんな時計をしているかだけじゃなくって、どのように時計を使っているのかでも、人間は値踏みされるんですね。となると、きっとぼくは自販機に左手を突っ込むような粗野な男だと思われてるんだな、まわりから。

広田 ……。

安藤 とにかく、ロイヤル オークのすごいところは、どんなシーンでも使える万能なデザイン。そして何より、ラグジュアリースポーツというジャンルを時計界に作ってしまったところにある。
広田さんもそろそろウイスキーがまわってきたようなので今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。


【問い合わせ】
オーデマ ピゲ ジャパン 03-6830-0000

関 竜太=写真 いなもあきこ=文

# オーデマ ピゲ# ロイヤルオーク# 腕統計
更に読み込む