
マクラーレンと言えば、F1のトップチームだとは知られているが、市販車も素晴らしいモデルを生産している。
そこで、国際モータージャーナリストのピーター・ライオンが最新の「アルトゥーラ スパイダー」を試乗してみた。

英国サリー州に本社の拠点を置くマクラーレンは、量産車作りの歴史は浅いものの、F1では長い歴史を誇っている。1974年以来、コンストラクターズ賞を9回獲得している同社は、現在、絶頂期にあり、同社のエース選手、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリが今年のF1ドライバー選手権をかけて戦っている。

マクラーレンは、自社のF1エンジニアリングの専門知識を活かして究極のスーパーカーを開発するため、1992年に巨匠ゴードン・マレーが考案した「マクラーレンF1」を皮切りに、量産車の製造に着手することを決定した。この動きにより、同社は最先端のサーキット走行向け技術を公道走行可能な車両に適用することで新たな市場を獲得した。
1998年にF1の公道仕様車の生産が終了した後、マクラーレンは社内問題に直面し、活動休止状態に入ったが、2011年に第2弾「MP4 12C」で正式に復活を遂げた。僕はそのデビュー当時に同車を試乗したが、サーキットでのフルスロットルのアタックだけでなく、しなやかなサスペンションのおかげで、普段使いにも最適な走りを堪能できた。
そして、マクラーレンは2013年に世界初のハイブリッド・スーパーカーとして登場したP1の足跡を辿り、2021年にはハイブリッドの「アルトゥーラ クーペ」をデビューさせ、2024年にはアルトゥーラ スパイダーを発売した。

今回の試乗は、そのアップデートされた2025年版となる。
スパイダーの登場は、アルトゥーラに向けられていたいくつかの疑問を払拭し、素晴らしいスーパーカーを実現した。このオープンカーは非常に印象的な車で、速く安全な運転がしやすい。が、それだけでなく、運転すればするほどその魅力が明らかになる。

スパイダーというと、注目する部分は当然、その電動ルーフだ。これは、8つの電動モーターで駆動するカーボン複合材製の折りたたみ式で動く。キーフォブ、または室内灯付近の頭上中央に設置されたスイッチで操作できる。開閉には11秒かかり、50km/hまでなら走行中でも作動できる。
オプションの「エレクトロクロミックガラスパネル」のサンルーフなら、もう一度ボタンを押すだけで太陽光線の99%を遮断し、浮遊粒子技術なるもので熱伝導までも低減する。日本の夏には不可欠なオプションに思える。

「アルトゥーラ スパイダー」は、2021年発表のアルトゥーラのパワーユニットを改良している。3リッターのV6のパワーを585PSから605PSに引き上げ、システム最高出力を680PSから700PSにパワーアップしている。同時にEV走行の航続距離が30kmから33kmに延びてもいる。
EVモードで、それだけ走行できれば、早朝でも住宅街を静かに抜け出せる。しばらく走って、電池のエネルギーがゼロに近づけば、デフォルトの「Eモード」から「コンフォート」に切り替える。すると、「ブォー」という音を元気良く出してエンジンが始動する。
さらに「スポーツ」に切り替えると、エンジン音がさらに大きくなり、8速のDCT付きV6エンジンが唸る。これは痛快だ! これをさらに「トラック」に切り替えると、レーサー気分になれる。

見た目もパワーも素晴らしいけど、このスパイダーの魅力的なところは乗り心地。14年前のMP4 12Cに乗って思ったが、このサスペンションの設定は通勤でも全く問題ない。非常に快適だ。スパイダーもそうだ。どこから眺めても、超スーパーカーに見えるけど、コンフォートモードなら毎日、気持ち良く乗っていられる。
スポーツにすると、ダンピングが引き締まり、マウンテンロードが楽しめる。トラックだと、まるでジキル&ハイドみたいに、乗り心地と雰囲気がガラっと変わって、レースマシンに変身する感じだ。

このスパイダーはかなりいい。外観デザインはこのタイプの車としては少し控えめかもしれないし、エンジンサウンドは、ランボルギーニやフェラーリほどドラマチックではない。いや、そこが大事だ。
しかも、「アルトゥーラ スパイダー」は非常に満足のいく車であり、3650万円のプライスはランボルギーニ・ウラカン・スパイダー、フェラーリ296GTSより手頃なのだから、説得力がある。