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上司が「褒め下手」になる理由とは? 経験が裏目に出る“ネガティビティ・バイアス”の正体

――実際には「褒めるのが苦手」と感じる中間管理職が周りにたくさんいます。なぜ、彼らは「褒めること」に壁を感じてしまうのでしょうか?
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実はそこには、人間の普遍的な心理的傾向と、経験を重ねたマネージャー世代特有の事情が関係しています。

まず、誰にでも共通するのが「ネガティビティ・バイアス」という心理的な傾向です。これは、人間がポジティブな情報よりもネガティブな情報のほうに強く反応し、記憶にも残りやすいというものです。

たとえば部下の言動で何か気になる点があると、その問題点やリスクばかりが目につきます。叱る場面では「昨日の会議であの発言は○○の観点で適切でなかった」と、かなり具体的に指摘できます。しかし、褒めるときには「すごいね」「さすがだね」と、どうしても抽象的になりがちなのも、このバイアスの影響です。
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――言われてみれば、ネガティブな指摘のほうが具体的になりやすい気がします……。

そうですよね。そして、もうひとつ見逃せないのが「経験」という要素です。

40代のようにマネジメント経験が豊富な世代になると、経験が浅い部下の行動を見たときに、「できていない部分」や「リスク管理が甘い部分」が目に付きやすくなります。

自分ならリスクを予測してもっと丁寧に対応していただろう……という視点から、つい不足やミスを指摘したくなる。「経験」というものがネガティビティ・バイアスと掛け算になってしまい、「なんでこれをやらないんだろう」と、ネガティブ・フィードバックをしやすい状態になってしまうわけです。

これは、経験豊富な人ほど陥りやすい落とし穴なんです。

――経験があるがゆえに、部下の未熟さに目が行ってしまうんですね。

はい。さらに言えば、褒めるという行為には「学習」が必要です。褒め方の語彙やスタイルは、自分が過去にどれだけ多様な褒められ方を経験してきたかによって身につくものなんです。

ところが、40代以上のビジネスパーソンが若い頃に上司から受けてきたのは、どちらかといえば厳しいフィードバックが中心だったはずです。

つまり、自分自身が「褒められる」経験が少ないことで、どう褒めればいいかの“引き出し”がそもそも育っていない。これが、褒めることに自信を持てない背景にもなっているんです。

部下の意欲を奪わない! 「伝わる褒め方」3つの極意

――では、どうすれば上手に褒めることができるようになるでしょうか? 効果的な褒め方と、逆効果になってしまう褒め方の違いを教えてください。

ただ単に「すごいね、偉いね」と褒めるのでは、正直なところ伝わりません。褒めたつもりでも、部下が「なぜ自分が評価されたのか」を理解できなければ、行動の再現性もモチベーションの持続も望めないのです。

良い褒め方には、以下の3つの原則があります。

◎良い褒め方

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① プロセスや努力を褒める
結果だけでなく、「どんな工夫をしたか」「どんな姿勢で取り組んだか」に焦点を当てることが大切です。

② 事実ベースで具体的に褒める
「どの場面で、どんな行動が、どういう結果を生んだか」を具体的に言語化することで、褒めの説得力が格段に上がります。

③ 他人と比べず、本人基準で評価する(絶対評価)
「同期の中でも優秀だね」よりも、「先月よりも◯◯が改善されていたね」と、本人の成長や変化に注目することで、部下は“ちゃんと自分を見てくれている”という安心感を得られます。
――どれも、すぐに取り入れられそうな工夫ですね。

ポイントは、「行動や変化を見逃さない」ことと、「評価の背景をしっかり伝える」ことです。具体的に褒めることで、どういう状況でどんな行動が評価されるのかがわかり、次の行動につながりやすくなります。小さな積み重ねが、信頼や安心につながり、やがてチームの雰囲気や生産性を大きく変えていきます。

✖️逆効果になる「悪い褒め方」とは?

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間違った伝え方をしてしまうと、部下のモチベーションを下げたり、チームの空気を悪くしたりすることにもつながります。注意すべき褒め方には、次のようなパターンがあります。
① 能力や才能だけを褒める(例:「優秀だね」「センスあるね」)
このような言葉は、成功した時には心地よく受け取られる反面、失敗したときには「自分には才能がなかったのかも…」と自信を失う原因にもなってしまいます。

② 抽象的で漠然とした褒め方(例:「すごいね」「頑張ったね」)
内容が曖昧な褒め言葉は、何が評価されたのかが伝わりにくいため、本人の中に残りづらいのが難点です。「なんとなく褒められた気がする」だけで終わってしまい、再現性も低くなります。

③ 他人との比較で褒める(例:「同期より優秀だね」「前のチームより頼れるね」)
他者との比較は、表面的には称賛のように見えても、受け取る側にプレッシャーや優越感、劣等感を生みやすい表現です。

④ 下心が見える褒め方(例:「これお願いできるかな?ほんと◯◯さん助かるわ〜」)
褒め言葉に“意図”が透けて見えると、一気に信頼が崩れてしまいます。「結局これが言いたかったんでしょ?」と見抜かれてしまえば、どんなに言葉を尽くしても逆効果にしかなりません。
――なるほど。褒め方にもリスクがあるからこそ、慎重に言葉を選ぶ必要があるんですね。

特に“能力褒め”は一歩間違うと、本人の成長意欲を奪ってしまうこともあります。結局のところ、大事なのは相手を思いやる姿勢なんです。テクニック以前に、「ちゃんと見ているよ」「あなたを認めているよ」という気持ちが、褒め言葉の効果を何倍にも高めてくれます。

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