ペドロ・ゴメス(Pedro Gomes)=写真
連載「The BLUEKEEPERS Project」とは……パタゴニアが、環境保護活動に取り組む世界中の人々や地域にフォーカスを当て、その活動や功績を映像で紹介する「パタゴニア・フィルムズ」。
日本からはプロサーファーの碇山勇生さんが、故郷の海を守る姿を追ったドキュメンタリー『尊々我那志〜とうとがなし〜』が公開されている。奄美大島に生まれ育った彼が、自身がサーフィンを楽しむホームポイントであり、真っすぐなビーチが続く手広海岸の護岸工事を阻止し、海洋保護に尽くした姿を追いかけた内容だ。
今回は、碇山さんに撮影当時を振り返ってもらいながら、故郷の海への思いを尋ねた。
【写真4点】「プロサーファー・碇山勇生が故郷の海を守る『パタゴニア・フィルムズ』のドキュメンタリーとは」の詳細を写真でチェック59万回再生。反響を呼んだ一人の男の姿
『尊々我那志〜とうとがなし〜』は、2023年7月からグローバルに展開しているパタゴニアのフィルムキャンペーンのひとつ。YouTubeにて59万回の視聴を達成し、奄美を舞台とした海洋保護活動を広める一助として大きな役割を果たした。
”海を守る”とひと口に言っても具体的にその方法には疑問符がつく人も多い。そこで海の豊かさ、海を保護する意味について、フィルムを通して価値観や感動を届けたいと考えられて製作された。
パタゴニアは、2030年までに現在比30%の海洋を保護するという目標達成のために、積極的にフィルムの製作を行っている。本作品も奄美大島を訪れたグローバルチームの撮影クルーによって作られた。
碇山さんは、プロサーファーであると同時に、奄美群島の自然環境の保護や保全、調査、研究、提言、さらには海洋保護に関する教育の発信などを行う一般社団法人NEDYの代表としても活動をしている。
「映像に収めるとお話をいただいたときは驚きましたが、結果的に奄美の現状を多くの方に伝えられる機会になりました。家族も登場しているし、環境にまつわる側面から自分の半生や活動を描いていただき、自然とともに暮らす姿が具体的に伝えられたと感じていますね」(碇山さん)。
フィルムでは、リゾート開発計画のために造成された陸地から流れ込む赤土で、奄美の海の珊瑚礁が死滅し、天然の濾過機能が失われてしまうなど、近年急速に海中環境が悪化してきたことが語られている。
制作に携わったパタゴニアのサーフチームを率いる牧野さんも、碇山さんの活動が日本における環境保護活動の課題克服の形として大きな意味を持つと話す。
「勇生さんの活動で注目すべき点は、対立するのではなく、お互いに歩み寄るところを非常に大事にされていたところです。丁寧にコミュニケーションをとる姿は、今後の日本社会のあり方でも大切になる部分だと思います」(牧野さん)。

碇山さんがなぜ歩み寄りを大切にしたのか。それはリゾート計画の工事に携わる、島で生まれ育ってきた仲間たちの思いも理解していたからだった。
「島の祭りであったり、もっと身近なところでは、みんなが行くスーパーマーケットだったり、顔を合わせる場面はこれからもたくさんある。護岸工事を阻止することができても、仲間たちと険悪になってしまうことは避けたかったんです。
そこで、手広海岸に設置されていたシャワーブースやトイレを快適な場所へと作り変えるようにすれば、彼らの仕事を無くさずに済むと思い立ったんです」(碇山さん)。
また、作品の題名である「とうとがなし」にも、碇山さんの思いが反映されている。
「目に見えないものや神聖なもの、自然への感謝の意を表す奄美独自の言葉で、祖母がよく海へ向かって言っていて、私も大切に思ってきました。僕がサーフィンを始めたのは中学生の頃ですが、島民のサーフ人口は当時も今もそんなに多くはありません。
先人たちから海は怖いところだと学ぶんです。一番勢力が強い状態で台風が島にやってきますし、外洋に接しているので黒潮の流れの速さだったり、自然だからこその畏れだったり、きちんと教えられてきた。だからこそ、“とうとがなし”という言葉が今回のフィルムの内容にぴったりだなと」(碇山さん)。
土屋尚幸(Hisayuki Tsuchiya)=写真
彼にとって、海に入ることは、自然とのチャネリングであるという。陸の上では人間関係や事業が繰り広げられている。しかし波に乗るときは、自らも自然の一部なのだと強く感じられる、日常のなくてはならない貴重な時間。だからこそ海は特別な存在であり、好きになればなるほど守りたくなるものだという。
「まずは、潮の香りを感じたり、波音を聞き、足をつけたりと五感全体で海と触れ合うと、愛着が湧きます。その思いはやがて、自然への感謝の気持ちや、後世に継いでいくためにも海を守っていきたくなる気持ちにつながる。
そうするとゴミを捨てないのはもちろんで、見つけたら拾ってみたりと、海の中の生き物について考えたり、海を取り巻く環境に目を向けるようになっていくと思います。目の前の一つひとつを地道に行っていくことが大切なんです」(碇山さん)。
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愛する奄美大島の海を大切に思う碇山さん。環境保全はもちろんのこと、海の安全を正しく伝えながら海のアクティビティの普及に勤しみ、未来に向けて歩み続けていく。