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2024.12.31

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止まらない“海離れ”を打開する国際指標「ブルーフラッグ」。海の、そして地域の活性化へ



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海離れが止まらない。余暇の動向を把握できる『レジャー白書』(公益財団法人 日本生産性本部)によると、ピーク時の1985年と比べ2022年の海水浴客数は9割も減少している。

この流れを食い止める一助となるのが、海の美しさや安全さを示す国際環境認証制度「ブルーフラッグ」だ。
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どのようにして海を、そして地域の活気を取り戻すのか。日本ブルーフラッグ協会の片山清宏さんに詳しく伺った。

海離れが進み、プールは人気を博す

1985年に1353カ所あった海水浴場は、2024年6月時点で970カ所に減少。1999年には海水浴客が100万人を超えた神奈川県・三浦海岸も2023年は8万人ほどへ。採算性などの理由から翌年の開設を断念した。

一方、大型のレジャープールやホテルのプールなどは好調だと聞く。水遊びそのものは嫌われていないのだ。

酷暑や日焼け、レジャーの多様化、そしておそらく最も本質的な海離れの理由は、“日常から海という自然との触れ合いが失われていること”なのだろう。

だから「夏に海へ行くという発想がない」という声も聞こえ、その希薄な存在感は、キャンプや自然学校による子供向けプログラムなど、足を運ぶきっかけが多様にある山とは対照的なのである。

海辺の地域にとって海離れは死活問題だ。多くの地方と同じく少子高齢化や財政難といった問題に直面し、そのうえ海水浴文化がもたらす経済効果ヘの期待が薄まり続け、大きな転機を迎えている。

この先も地域の風土をともに築いてきた海と生きていくのか、共生を諦めるのか。

前者を選ぶなら、海を資源として環境整備や観光促進等に自治体は予算を割き、後者なら漁業や護岸工事をはじめとする公共工事が海に関する主な事業となる。

こうした実情を理解したうえで「現実的に海水浴客を増やしていくのは至難の業」と言ったのは、日本ブルーフラッグ協会の片山清宏代表理事だ。

「夏に海へ行く生活様式が崩れている社会において、この先も海と海の家をコンテンツに多くの人を呼び込むのは正直なところ難しい。

今後も海の町が輝き続けるためには、美しく豊かな海を武器に地域一帯で誘客を考えることが重要でしょう」。

そして、海水浴客、観光客、移住・定住人口、関係人口を増やすための旗印がブルーフラッグなのだと、片山さんは続けた。
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ブルーフラッグは地域課題を解決する手段

日本ブルーフラッグ協会 代表理事 片山清宏さん●1975年、神奈川県生まれ。湘南・鵠沼海岸の近くに生まれ育ち、大学卒業後の99年に厚木市役所入所。2010年、松下政経塾に入塾(第31期生)。13年、湘南ビジョン研究所を設立し、海の環境問題に取り組む。22年、日本ブルーフラッグ協会を設立。サーフィンキャリアは40年以上。学生時代には全日本学生サーフィン選手権で4位に入賞した経験を持つ。

日本ブルーフラッグ協会 代表理事 片山清宏さん●1975年、神奈川県生まれ。湘南・鵠沼海岸の近くに生まれ育ち、大学卒業後の99年に厚木市役所入所。2010年、松下政経塾に入塾(第31期生)。13年、湘南ビジョン研究所を設立し、海の環境問題に取り組む。22年、日本ブルーフラッグ協会を設立。サーフィンキャリアは40年以上。学生時代には全日本学生サーフィン選手権で4位に入賞した経験を持つ。


ブルーフラッグとは、国際NGOのFEE(国際環境教育基金)が実施する、ビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした世界で最も歴史ある国際環境認証だ。

認証基準を達成すると取得でき、毎年の審査を通じて、ビーチやマリーナ等の持続可能な発展を目指している。

1985年にフランスで誕生し、2024年5月時点で、51カ国の5121カ所が認証を取得。特にヨーロッパでの認知度は高く、ブルーフラッグビーチは「きれいで安全で誰もが楽しめる優しいビーチ」として広く認められ、バカンスシーズンになれば多くの人が足を運ぶ。

認証を得ていないビーチは「きれいではない」という認識が広まっているともいえるのだ。
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実際、認証の取得には厳しい審査をクリアする必要がある。ビーチは4分野(水質、環境マネジメント、環境教育と情報、安全性とサービス)33項目、マリーナは6分野37項目、観光船舶は5分野51項目の認証基準があり、審査をパスすることで初めてブルーフラッグを掲げることができる。

日本では2016年に神奈川県の由比ガ浜海水浴場、福井県の若狭和田ビーチ(前ページ見開き写真)が初めて取得したのを皮切りに、現在では14カ所が取得している。

興味深いのは「認証の取得がゴールではない」とする点だ。ブルーフラッグはあくまで手段。「きれいで安全なビーチというお墨付きを活用して、どのように地域を活性させるのかが重要」なのだ。

「事例としてわかりやすいのは東北でしょう。近年、宮城県の気仙沼市や南三陸町、岩手県の陸前高田市で海水浴場を復活させる動きがあります。

東日本大震災によって堤防などのインフラが壊され、10年近く閉鎖されていたのですが、その間に海水浴文化はなくなり、海水浴客も減りました。対して海を含めた自然環境は素晴らしく、ブルーフラッグを取得して地域振興をしようという流れが生まれたのです。

海水浴場をうたえるのは夏の短い東北は1カ月ほどですが、ブルーフラッグビーチであることは通年うたえます。

そこで“誰もが楽しめるきれいで安全なビーチ”をコンセプトに、キャンプ場やサウナのような誘客装置を備え、季節を問わず海を楽しめる環境整備を行ってきました」。

ブルーフラッグビーチという旗印のもと、温泉などもともとあったコンテンツもつないでプロモーションを展開。人の行き来を生むことで地域のバリューを最大化し、一関など内陸の都市からの誘客を実現したという。

加えて環境省のネイチャーセンターがある南三陸町では教育機関等に対して環境教育旅行をセールス。地域の特性を活かした振興策で新たな関係人口を創出していった。

認証取得をきっかけにビーチの風紀を改善した事例もある。

「夏に100万人を超える人が来場する湘南の片瀬西浜・鵠沼海水浴場や神戸の須磨海水浴場は、かつて飲酒や喫煙、深夜まで鳴り響く音楽などを理由に苦情が増え、ビーチマナーや治安が悪化する事態となりました。

すると子供連れのファミリーたちを中心に人が離れていったんです。

そこで自治体や地域社会が働きかけ、ブルーフラッグの規定を活用してビーチでの飲酒を禁止し、喫煙所を設けるなど誰もが楽しめるビーチづくりを推進。離れた人たちをまた呼び込んでいきました」。

さらに人口1万人に満たない福井県高浜町にある若狭和田ビーチは、インバウンドを含めた観光振興、移住定住の促進による地域活性化に期待して認証を取得。

前出の由比ガ浜海水浴場は取得を通して市民・企業・行政の連携を生み、環境教育、環境保全、安全対策の取り組みを推進。なかでも県と連携したビーチのバリアフリー化は大きな成果とされた。

かようにブルーフラッグの活用法は異なる。地域それぞれが抱える問題を解決する手段となりうるのだ。
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