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2024.11.25

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海洋生物学者を魅了し続ける“カイメン”の神秘「6億年前から生存するのに、分からないことだらけ」



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ミクロの世界でどでかい発見を続ける海洋生物学者の伊勢優史さん。彼が日夜向き合うのは、筋肉も神経も内臓もない“カイメン”だ。

地味で動かないのに動物に分類され、6億年前から生存するのに今も分からないことだらけ。

海の神秘を物語るこの不思議な生き物について、存分に語ってもらった。

謎多き海の生き物カイメンとは?

おそらく、一家にひとつはある。例えばキッチンのシンク回りや浴室に。食器や浴槽をきれいに洗う、細かく穴の空いたできるやつ。そう、スポンジは海の生き物をモチーフに作られたものなのだ。

何せ英名がスポンジ。和名はカイメン(海綿)。こちらのほうが聞き慣れない。

「古代から人は天然のカイメンを、体を洗ったり、手術で血を拭くときなどに使っていました。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスの書物にも、カイメンの利用に関する記述が残っているので、古くから日用品として身近な存在だったのです。今も天然のカイメンは高級なバススポンジや化粧品などに使われています。

国内でもネット通販などで手軽に購入できますし、地中海沿岸ではかつてカイメン漁が行われ、貴重な資源となっていました」。

そう説明するのは眼前に真っ青な太平洋が広がる黒潮生物研究所(高知県)に勤めている伊勢優史さん。カイメンに魅せられ日夜研究を続ける海洋生物学者だ。

聞けばカイメンは最も祖先的な多細胞動物のひとつで、筋肉も神経も内臓もないという。

なんとも不思議な生き物で、地球上に現れたのは約6億年前。体の大きさは成体になっても1cmに満たないものから、小型のマイクロバスほどの大きさになるものまでと多彩で、その種数は発見されているだけでおよそ9700種。そう遠くないうちに1万を超えるだろうと予測する。

その姿は潮が引いたら水がなくなるような浅瀬から、水深8800m以上の超深海まで海のあらゆるところにあり、日本の海でもそこかしこで見られる。

「きっと海水浴に行った際に目にした人もいるのではないか」と伊勢さんは付け加えた。

「シュノーケリングなどで目にしたサンゴの近くにいたり、潜らなくてもビーチ近くの岩場にへばり付いているのを見かけます。僕のいる研究所の前の海にもいるし、関東近郊の海にもいる。

ただし、生き物に詳しい人でないとカイメンだと認識するのは難しいでしょうね。僕も初めはそうでした」。

そう言う伊勢さんは、今や日本におけるカイメン研究の最前線に立つ第一人者であり、カイメンには応用科学の側面から3つの将来性が期待できると指摘する。

いわく、カイメンの生物資源としての利用、生態系における重要な役割、環境DNA解析の材料、である。


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