豚バラ肉のあみ焼きでご飯を巻いて食べるのが旨い(筆者撮影)
それでわかった。豚バラ肉のあみ焼き以外のおかずは要らないのだ。「もっと野菜を」とか、「栄養バランスが」という声も聞こえてきそうだが、毎日食べるわけではなく、年に数回のことゆえに大目に見てほしい。
すっかりあみ焼き弁当のファンになった筆者はそれ以来、静岡方面へ行くたびに買って帰るようになった。名古屋から行く場合、静岡よりも手前にある島田や藤枝への出張時も静岡まで足を延ばして立ち寄った。
何度か食べているうちに、フードライターとしての血が騒いだ。あみ焼き弁当について、じっくりと話を聞いてみたいと思ったのだ。いや、正直に告白すると、あみ焼き弁当が食べたくてたまらなくなり、静岡へ行く口実がほしかったのだ。
取材に対応してくださったのは、しずおか弁当を運営する静京商事有限会社の常務取締役、森谷昇吾さん。早速、店の奥にある厨房に案内してもらうと、ちょうどあみ焼き弁当を調理していた。
バラ肉ゆえに赤身が多い部分もあれば油の多い部分もあるため、焼く時間や裏返すタイミングが肉ごとに異なる。それを見極めながらの作業となるので職人的な技術とセンスが必要になる(筆者撮影)
カットされた豚バラ肉をタレにくぐらせて、焼き台のあみの上に並べて焼いていく。厨房内は何とも食欲のソソられる匂いが立ち込める。もうこの匂いだけでご飯を食べられるほどだ。
肉の両面を焼いて少し焦げ目がついたところで引き上げて、弁当箱によそったご飯の上に焼いた肉を敷き詰めていく。その上からタレをかけて完成。と、調理法もシンプルこの上ない。が、多くの人々を虜にして、ひいては店の名物にまで押し上げたわけで、何かしらの秘密があるに違いない。
あみ焼き弁当は北海道・十勝の豚丼がモデル
「弊社の創業は1972年で、もともとこの場所はタクシーの配車場でした。その脇で立ち食いそばの店も営んでいて、牛めしなども扱っていたようです。両替町界隈は居酒屋やバー、クラブ、スナックなどが建ち並ぶ歓楽街なので、その場所を生かした事業を始めようと配車場を壊してビジネスホテルと弁当店を開業したのがはじまりです」(森谷さん)
静京商事有限会社の常務取締役、森谷昇吾さん。前職で広告代理店やPR会社で働いていたスキルを生かして商品開発やPRに携わっている(筆者撮影)
しずおか弁当の店内にいると気が付かないが、裏へまわると店はホテルの1階にあることがわかる。ちなみにここ『静岡ユーアイホテル』では、あみ焼き弁当付きの宿泊プランもあるというから、筆者はここを静岡出張の定宿にしようと思う。
弁当店を始めるにあたって、創業者は名物になる弁当を作るために全国各地を食べ歩いたという。北海道の十勝で食べた豚丼に衝撃を受けて、これをアレンジした弁当を作ろうと考えた。北海道の豚丼に使われるのは主にロースであり、時間が経つと固くなってしまう。持ち帰りが前提の弁当には向かないことからバラ肉を使うことにした。とはいえ、バラ肉も冷めると脂が固まってしまう。
豚バラ肉のあみ焼きとご飯というシンプルな組み合わせだが、知恵と工夫が凝縮されている(筆者撮影)
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