当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら。 「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。
「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。
今回に話を伺ったのは、奄美大島に古くから伝わる天然染料「泥染め」で、伝統工芸の大島紬の絹糸の染色をはじめ、アパレルブランドとのコラボレーションやアートピースを数多く発表している〈金井工芸〉染色人の金井志人(かない・ゆきひと)さんです。高校卒業後に上京し、25歳で地元へUターンした金井さんだからこそわかる、奄美の自然と人との関係性について話を聞きました。
奄美大島で旧暦は日用品のようなもの
奄美では、今も旧暦で生活している人が多いです。月の満ち欠けに合わせて動く習慣があって、例えば旧暦の1日と15日は墓参りの日。季節の行事も旧暦に沿って行われています。奄美は本島から遠く離れていて、歴史上琉球王国や薩摩などの統治もあった島。中国やタイなどでは今も旧正月が祝われますが、そうした南の国からの影響を受けやすかったというのも、旧暦が残っている要因の一つなのかなと。
また、冬場の大潮のときには「イザリ漁」という、潮が引いた後に、逃げ遅れた魚や貝を獲る漁をします。潮の満ち引きは月の引力によって起きるので、月の満ち欠けでひと月の長さを決めていた旧暦のほうが生活への密着度が高いのでしょうね。
そういった意味では、旧暦はより自然に近い「テンポ」みたいなものなんじゃないかと思います。土地柄台風などの天災も多く、自然のほうが人間よりも圧倒的に強い。僕たちはそこに住まわせてもらっている感覚ですよね。自然というものを意識せざるを得ないし、台風で屋根が飛ばされても「仕方がない」と諦めて、受け入れるしかありません。
自然の中で染めさせてもらう。「泥染め」という染色技法
世界でも奄美だけに伝わる「泥染め」は、奄美に自生する車輪梅(シャリンバイ)という植物で絹糸を染め、次に鉄分が多く含まれる泥田(どろた)に浸け、化学反応によって色を出すというもの。2月4日頃の立春や2月19日頃の雨水(うすい)などに関わらず通年作業はできますが、2月は気温が一桁台になることも。
気温によって色の出方などは変わりませんが、一番変化するのが染める人の状態。寒ければ無駄な動きをしなくなるし、曇っていて乾きにくいなどの天候によっても変わるため、染める人がその時の染料をどう扱うかで色は変化することを前提に、自身の工程をつくります。
近年は気候変動の影響もすごく感じるようになりました。泥田の後、川で泥を洗い流すのですが、12月なのにカエルが鳴いていたり、蚊に刺されたり。また、最近ではホエールウォッチングができるようになりました。水温が上昇したことで、クジラの通るルートが変わったみたいですね。気候が変われば生える植物も変わるだろうし、植物が変われば染色で出る色も変わります。
ただ、自然が変化するのは当たり前のことで、そこに合わせていくのも奄美らしさだと思っています。染めの仕事は、まず前提として自然があって、そこで染めさせてもらっている。自然の状態に人が合わせていくしかないですね。
奄美にも寒波が訪れ気温も一桁台に。寒い日の釜焚きは工房の天井一面湯気で真っ白になるそう
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