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井植 今、開発中のプロダクトについて、伺ってもいいですか?

水原 プラスチックをアップサイクルした容器を開発中です。「SPACE AVAILABLE」という、インドネシアを拠点に活動しているサステナブルなブランド兼プロジェクトとの共同開発です。

​「SPACE AVAILABLE」はインドネシア・バリを拠点とするデザインスタジオ。「WESTERN HYDRODYNAMIC RESEARCH」などと多くのブランドともコラボレーション。現在ゴールドウインと協働し、東京にてポップアップを開催中。

​「SPACE AVAILABLE」はインドネシア・バリを拠点とするデザインスタジオ。「WESTERN HYDRODYNAMIC RESEARCH」などと多くのブランドともコラボレーション。現在ゴールドウインと協働し、東京にてポップアップを開催中。


井植
 面白そうですね。何の容器ですか?

水原 まだ秘密なんですけど、主に海で使うものです。だからガラスだと割れたりして危ない。でもプラスチックはもう使いたくない。でもプラスチックのアップサイクルだったらメッセージも伝えられるし、いいんじゃないかなって。日本のプラスチックゴミを使います。

井植 SPACE AVAILABLEさんと組んでいらっしゃるのはどんな経緯で?

水原 インドネシアのバリ島に行った時に知り合いました。ファウンダーのダン・ミッチェルさんは元々ファッション業界にいた方で、服の大量生産などの問題に直面した時にこれではいけないと思って、SPACE AVAILABLEを立ち上げたそうです。バリ島にはPotato Headっていう、最近ファイブスターになったホテルがあるんですけど、ここもかなりサステナビリティを意識されていて、すごく影響を受けました。

バリでの「SPACE AVAILABLE」ポップアップの様子/水原さん撮影

バリでの「SPACE AVAILABLE」ポップアップの様子。/水原さん撮影


井植 どんな活動をしているのでしょう。

水原 例えば、レストランで出す牡蠣などの貝殻を捨てずに加工して、石鹸の容器やプレートをつくったり。ペットボトルなどのプラゴミを集めてチップ状にして、溶かしてシートのようなものにしたり。マーブル状の模様がかわいくて、それで椅子とか結構大きいものをつくっています。どれもすごくおしゃれにトランスフォームされていて、格好いい。プラスチックのアップサイクルは賛否両論ありますけど、何か素敵なものに生まれ変わらせるっていうのは、私はアリかなと思っていて。

井植 ポイントは、どれだけ美しく生まれ変わらせるかっていうことですね。

水原 まさに。彼らのプラゴミの集め方がまたすごく面白いんですよ。ゴミ拾い目的のイベントであることに変わりはないんですけど、なんかもう完全にパーティみたいなんです。DJが音楽を流していて、飲食も楽しめるし、そのドリンクを出すカウンターは全部バンブーで作ってあって、プレート類もすべてが自然のものでできていて。

キノコの菌糸体で作られたトレー。/水原さん撮影

キノコの菌糸体で作られたトレー。/水原さん撮影


参加するともらえるノベルティがあるんですけど、いろんなポケットがついているバッグで、これがまたすごくオシャレなんです。それを持って、各々海に行ったり、山に行ったり、街に出たりして、ゴミを拾って帰ってきて、またパーティするみたいな。最後はみんな楽しい気持ちになって帰っていく。

井植 とてもいいですね。楽しくなくちゃ、っていうところに、私も大共感します。興味のない人たちをいかに巻き込めるかということを、すごくスタイリッシュに実践なさっていますね。

水原 ゴミ拾いは、友達と集まって遊ぶ口実のひとつになっているというか。ただ美味しいドリンクが飲みたい、いい音楽が聴きたいみたいな、そういう目的で集まっている人も少なくなかったと思います。集まるのは若者が多くて、みんなちょっとオシャレ。楽しそうだし格好いいっていう感覚で若者を巻き込むのはすごい。どうにかこれを日本に持ってこれないかなと思いました。

井植 日本は、ちょっとまじめすぎるところがあるかもしれませんね。

水原 そうなんです。私は日本でも何度かゴミ拾いイベントに参加させていただいたことがあって、もちろん皆さん前向きだし素晴らしい活動なんですけど、だんだん悲しくなってくるんです。何でこんなことになっているんだ、これどうすればいいんだ……みたいな気持ちがどんどん膨らんで、苦しくなる。

バリの夕暮れ。/水原さん撮影

バリの夕暮れ。/水原さん撮影


まじめに環境のことを考えている人だけがそこに集まって、ひたすら耐えながら任務をこなす感じ。そういう人たちこそが活動を引っ張ってくださるリーダーであり原動力なんですけど、一方で私がこれから手伝えることがあるとしたら、どれだけ多くの興味がない人たちを、違う要素で呼び込むことができるか、っていうことかなと。

井植 みんなが注目するような提案をファッショナブルにできるっていうのは、とても大事なことだなと私も感じる機会が多いです。地球はひとつですからね。私たちが吸っている空気も、あまり認識されていませんが、半分以上が海から来ています。海が見えないところに住んでいたとしても、私たちは海に生かされ、生きているんだということを、頭のどこかで思い出せるようでありたい。ひとつの大きな方向に、いかにみんなを巻き込んで向かっていくっていうのが、とっても大事ですね。



水原 本当にそう思います。

井植 ファッションの力は大きいです。

水原 やっぱり、格好いいということに、若者って敏感じゃないですか。私も含めてですけど。じゃあ、格好いいものって何なのかということを、私たちの世代が示していかなきゃいけないと思っています。実はこれアップサイクルなんだけど、昔から日本にある技術なんだよ、格好いいよね!っていう感じで。

井植 そうですね。時代の価値観は確実に変わってきています。

「kiiks」のハマナズローズバーム

「kiiks」のハマナスローズバーム。/Photo by Daiki Tateyama


水原
 もう始まっていますよね。若い人たちは既に盛り上がっています。だからキークスもこんないろんな良い反応をいただけているんだろうなって。ひとつの何かを通して、ちょっとインテリジェンスな方向へ。地球環境に優しいことって格好いいよね、地球に優しいことをするって格好いいよね、ゴミを海に捨てる人はルーザー(敗者)だよね、みたいな。

井植 中から変える力というのも大きいですね。同時に外まで巻き込んでいくというところで、希子さんの立場が最大限に発揮できるような取り組みを、これからも続けていただけたら楽しいことがどんどん増えていきそうです。

水原 ファッション業界にいると、こんなに作る必要があるのかな……とか矛盾を感じることも正直多いんです。でもそこで悲観するだけでは何も変わらない。矛盾の中で葛藤しながら、どうにか一つひとつ前に進めていけたらいいなと思っています。見捨てたり、切り捨てたりするのではなくて、できれば一緒に進めていこうよっていう。それがベストかな。


環境に優しいことは格好いい。ファッショナブルにみんなで楽しく、環境問題に向き合えるように水原さんは挑戦を続けていた。

合六 美和=取材・文

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