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2024.05.28

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サステナブルツーリズムの先駆者「パラオ」が取り入れる“環境税”の意義



「SEAWARD TRIP」とは……
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訪れる旅行者は航空券の代金に上乗せされる形で100ドルを支払う。徴収の名目はプリスティン・パラダイス環境税(以下、環境税)。豊かな自然を維持するために課せられるパラオの税金である。

環境税は、主に何に使われているのか。その仕組みや用途を、東海大学観光学部の黒崎岳大准教授に伺った。

きっかけは消えたクラゲだった

南太平洋に浮かぶパラオは、日本から真南へ3000kmほど離れたところに位置し、赤道よりわずか北にある人口1万8000人ほどの小さな国。9つの有人島を含む386の島々から構成される常夏の島国だ。

今年独立30周年を迎える同国の主要産業のひとつは観光。大きな観光資源は豊かな自然であり、なかでもダイバーたちには長く聖地として愛されてきた。

エメラルドグリーンの美しい海には、ナポレオンフィッシュ(前ページの見開き写真)や巨大なマンタ、ジンベイザメ、マッコウクジラといった多様な魚種に400種以上のサンゴなど、世界有数の多様な海洋生物が息づいているためだ。また密かにブレイクする波があり、知る人ぞ知るサーフトリップの目的地にもなっている。

日本との関係性も深く、親日の国と呼ばれる。第一次世界大戦後、およそ30年にわたり日本の委託統治下にあり、当時は多くの日本人が移り住んでいた。日本語にテレビやパソコンといった英語由来の言葉があるのに似て、パラオ語には「日本語?」と聞こえる言葉が数多くある。

同国最大の都市コロールから南西50kmの場所に点在する大小445の島々をロックアイランドというが、エメラルド色の海にたくさんの島が散らばる風景は「南洋の松島」と呼ばれる。

呼称の由来は日本三景のひとつ、宮城県の松島に似て美しいことにあったとされ、さらにトミー・レメンゲサウ・ジュニア前大統領は日系人だ。こうした日本に関係する数々の話を耳にすると、歴史的にも文化的にも、パラオとの間には親密なつながりを感じることができる。

両者の良好な関係性は観光にも表れている。2010年頃は、ダイビング等のマリンアクティビティを求めパラオへ旅行していた年間約10万人のうち、最も多く渡航していたのが4万人の日本人だった。以降も台湾や韓国が続くように、アジアを主要マーケットに観光ビジネスを展開してきたパラオにとって日本は最上のクライアントだったのである。

当時はまだ「観光」と「環境」のバランスは保たれていた。様相に変化が見られだしたのは12年頃だといわれる。

先述した古代の火山活動によって隆起した無人の島々、ロックアイランドが世界複合遺産に登録されたことでノンダイバーの旅行者が増加。さらに翌年以降、経済成長や直行便就航などを背景に中国からの渡航者が増えて年間渡航者は15万人ほどに膨らんだ。

観光ビジネスが成長して万々歳!と、手放しで喜ぶわけにはいかなかった。来島者が急増したことによる負荷は、環境へ大きな影響を及ぼしたからだ。象徴的だったのは、クラゲの消滅だった。


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