世間と自分をリンクさせないから、他の人の意見に流されない
編集部 西川さんは新しい情報を取り入れることに抵抗がないのですね。とはいえ、情報を多く取り扱う職業柄、その波にのまれて苦しくなることはありませんか?
西川さん それが全くないんですよね。むしろ、いろいろな情報に触れさせてくれて、ありがたいとすら思っています。とくに仕事では、初めて落語や野球を深く知れたことで、自分の個性の形成にもつながったので。それは文化放送を通じて触れている、ということも大きいのかもしれません。
そもそも私は学生時代からミーハーな方ではなくて、スイーツやカフェ巡りなど、流行に飛びつけないことに悩んだりもしました。その点、文化放送はそういう社風なのか、流行を追いかけることがそこまで多くない。そういう文化放送の色と自分の色が合っているのかもしれませんね。
今のトレンドとされるキャンプやサウナなども得意ではありませんが、文化放送でそれらを扱うことは少ないですし。学生時代であればトレンドやブームに対してネガティブな感想を持つタイプでしたが、今は「みんなそれぞれ好きなものがあっていい」と思えるようにもなりました。それもこれも、プライベートでも仕事でも好きなものに触れられているからなのかもしれません。
編集部 流行になびかないこともそうかもしれませんが、西川さんが情報の取捨選択で大切にされていることは?
西川さん 世間と自分をリンクさせないことでしょうか。例えば、番組に有識者の方をコメンテーターとしてお呼びし、ある事象についてお話いただく場合、もちろん世間の意見はチェックしますが、それになびいて自分の意見を曲げることはないですね。アナウンサーとして「世間ではこういう意見が多いようですが」という聞き方はしますが、多数派の声になびかないようにしています。もちろん、コメンテーターの方の意見や主張にも。
編集部 なぜ他者の意見や主張になびかずにいられるのでしょうか。
西川さん う〜ん、どうしてでしょうね。もしかしたら一人っ子の鍵っ子だったからかも。小さい頃から周りの環境に左右されることなく、自分の好きなものを好きな分だけ摂取していたので、「人は人。自分は自分」という考えが根付いているのかもしれません。
編集部 では最近触れた情報の中で、ご自身の新たな気づきになったこと、新たな価値観の形成につながったものはありますか?
西川さん つい先日、昔の価値観が覆されたことがありました。哲学者の永井玲衣さん、芸人の大島育宙さん、私の3人でPodcast番組『夜ふかしの読み明かし』をやっているんですが、そこで村上春樹さんの『ノルウェイの森』を読み明かしたんです。
3人とも10代の頃に出会って苦手になったいわくつきの1冊なのですが、大人になった今改めて読んでみたら、無駄な登場人物が1人もいないことに気づいたり、情景描写の美しさに感激したり。読後感が全く違ったんですよ。当時は全く感情移入できなかったのに、生と死の描き方にも感動してしまって……。さまざまな情報やものごとに触れ、自分自身が成長したから捉え方が変わったんだと思いますが、これはとても新鮮な体験でしたね。
編集部 苦手なものが好きになるというのは新しい体験ですね。最後に、5年先の未来、人々の「取捨選択」はどうなっていると思いますか?
西川さん 希望を言うなら、ラジオがもっと盛り上がっていたらいいなぁ。みなさんの選択肢の中に、当たり前のようにラジオが入っていてほしいですね。今はスマホやパソコンでもラジオが聴ける時代。それもリアルタイムで聴き逃しても、遡って聴取できます。いつでもどこでもラジオを聴けるようになった今、たくさんある番組の中からリスナーに選んでもらうには、コンテンツ力を高めていくことが大事だと感じています。
そのために私個人としては、番組のチームワークを大切に一つひとつのシーンに力を入れていきたいと思っています。これからも共演者の方やスタッフとコミュニケーションを取りながら、聴きごたえのあるいい番組をリスナーに届けていけたら。