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人々が楽しい時間を過ごす場所〈ヒラクビル〉をオープン

2017年から多治見駅の近くの〈ながせ商店街〉にあるビルの再生プロジェクトが始まりました。

「商店街の中心にあるビル一棟が空いてしまっていました。そこは2013年に閉店した、地元で愛されていた時計店〈宝石・時計・メガネのワタナベ〉というお店。地元の多くの方が初任給で時計を買った、結婚指輪を買ったなど、たくさんの思い出が詰まっているお店だったんです。そんな話を聞いていたので、なんとかここを再生したいと思いました」

このビルのコンセプトは、「過ごす場所を作る」こと。多くの人が楽しい時間を過ごせるような場所づくりが始まりました。



「商店街はなかなか長時間滞在ができる場所ではありませんでした。車が通れる商店街なので、車を店の前に停めて用事を済ませるとすぐに出ていってしまいます。そうではなく、駐車場に車を停めていくつかの店舗を回ってほしい。『過ごす』ことをテーマにテナントも、具体的なアクションも選んでいこうと思いました」

そこで考えたのが書店。直営で書店を経営する案もありましたが、地元に昔からある書店〈東文堂〉が協力してくれることになりました。本棚にはやきものに関係する本もたくさん置かれています。

「地域の人に読んで欲しい本を仕入れて特色のある書店を作りたいという思いを共有し、全国の書店を東文堂さんと一緒に巡りました。また本が好きな人が増えるようなイベントも一緒に開催しています。YONDAY(ヨンデー)という野外本屋のイベントで、子どもたちへの読み聞かせや、屋外での本の販売、本に出てくるドリンクやフードを楽しめる企画や本棚を作るワークショップなど、本にまつわることをしています。回を重ねるごとに、サポーターで高校生や中学生も入ってきてくれて多世代で運営することができました。」

書店のほかに、読書ができる喫茶店「喫茶わに」やレンタルスペース、シェアオフィスなどが入ることが決まりました。〈ヒラクビル〉のプロジェクトがはじまってから、商店街にも変化が出てきたと言います。

「ビルを作っている最中、商店街の皆さんと『〈ヒラクビル〉が完成したら商店街に来る人が増えるから、自分たちの店にもお客さまが来てくれることを考えましょう』と一緒に勉強をしながら過ごしていました。そこでお客さまに向けた情報誌を作ろうというアイデアが出て、委員会ができあがりました。

施工中は、リノベーションの現場に来て壁塗りや掃除を手伝ってくださる方もいました。多くの方に楽しみにしていただいて、力を貸していただいたんです。のちのち自分の店を持ちたいという夢を持つ創業前の人たちも結構来てくれていたようです。次のプレイヤーたちも集まってくれる現場になったことを嬉しく思います」

街の人のやる気も刺激した〈ヒラクビル〉。2019年の開店は多くの人に歓迎されました。地元に住む人も多く訪れて、ビルの完成を喜んでくれたといいます。

「街の人の思い出が詰まっている場所ですし、造りも立派だったので残せる建築は残すようにリノベーションをしています。表にある世界時計は、街の皆さんに親しまれていたのでそのままに。ある日、多治見市内に物件を所有している高齢の方が見に来てくれました。その方が『こんなふうに生まれ変わるなら、ぜひ私の物件も君に任せたい』と言ってくださって。とても嬉しかったです」
 



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