当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら。 「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
今回、ご登場いただくのは、兵庫県加古川市にあった古い研修施設をクリエイティブ総合施設〈ON THE HILL〉として蘇らせた現代アーティストの岡本亮さん。
オープンから1年が経ち、人と人が出会う交流の拠点として、また教育を提供する場として多くの人を迎えています。岡本さんが考える教育、まちづくり、そしてアーティストだからこそできる場のつくり方について伺いました。
Profile
岡本亮さん(おかもと・りょう)
1977年、兵庫県加古川市生まれ。
イギリスにわたり、ロンドンのキャンバーウェル大学、セントラル・セント・マーチンズ大学で芸術を学ぶ。世界各国を巡った後、独自の視点で買い付けした輸入雑貨店を立ち上げる。2009年、アート活動を再開。2010年から加古川で再び生活を始める。2018年にアートブランド「CALMA」を立ち上げ。地元に関わるイベントも熱心に行い、2021年には加古川の河川敷で開催される野外フェスティバル「SAVE KAKOGAWA FES」を主催。2022年に〈ON THE HILL〉をオープンさせた。
日岡山公園は、加古川のセントラルパークになり得る
兵庫県加古川市にある日岡山公園は、36.6haの広大な敷地面積を持つ広い公園です。この一帯は、5基の前方後円墳が分布している日岡山古墳群として知られている歴史的にも重要な場所。
2021年、この公園内にレストランや、イベントスペースを備えた総合施設〈ON THE HILL〉が誕生しました。プロデューサーは加古川市で生まれ、今はこの公園の近くで生活を営む現代アーティストの岡本亮さん。岡本さんは、幼い頃からここに親しんでいました。
〈ON THE HILL〉から見渡せる日岡山公園の様子。
「日岡山公園は昔からお花見の名所で、近隣の人は桜の時期にここに集まります。サッカーグラウンドや野球場、プールもあったので僕が子どもの頃はよくスポーツをしに来ていました」。
高校卒業まで加古川で過ごした岡本さんは、18歳のときロンドンに渡ります。現代美術を学び、世界各国を巡って作品を発表。世界中を見るなかで、なぜ日本には多くの人に愛される公園がないのだろうと疑問を持つようになりました。
「ニューヨークのセントラルパークや、ロンドンのハイドパークなど、海外でいろんな公園を見てきました。規模は全然違うけれど、日岡山公園にはそんな場所がつくれる環境や下地があると感じたんです。海外の公園は、いろんな機能を持っていますよね。生き物が住んでいる場所であり、憩いの場、ものを発表する場、そして人を育てる教育の場でもある。
この公園には木々が生い茂り、花と緑が溢れる自然豊かな場所なので、海外の公園のようにいろんな機能を持たせることができると思っています。しかし、人口に対して公園を使用している人の割合が少なすぎる。昔から夜になると少し治安が悪くなるイメージも。こんなに良い場所があるのに、お花見のときしか人が来ないというのは活用できていないと感じました」。
「もったいない」故郷、加古川に感じたもどかしい思い。
岡本さんは以前から、まちづくりにも興味を持っていました。
「現代美術は価値がないと思われていたもの、見過ごされていたものから価値を生んだり、その価値を証明したりする作業です。それはまちづくりにも共通する考え方。僕がアートを学んだ23歳くらいのときに『街をつくったらいいじゃないか』と思いつきました。
そのとき興奮して、お祭りを考えたりしてノートに思いつくままアイデアを書いたんです。でもはたと気がついた。こんなことをしていても街はつくれない。やっぱり一回アーティストになってからまちづくりをしようと考え直し、ノートはテープでぐるぐるに巻いて封印しました」。
2010年からは、再び加古川市で生活をするようになり、この土地にある魅力にまだまだ多くの市民が気づいていないことを実感します。せっかくのポテンシャルを活かしきれていないこの街のことを、もったいないと強く感じるようになりました。
日岡山公園の丘の上に位置する〈ON THE HILL〉。
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