エピソード③ 不倫探偵と依頼者の妻の間で殺人トラブル。現場は過去にも……
私は常々、死者が出ると世の中が変わる、逆に言うと誰かが死なないと世の中は変わらないのではと考えています。
その象徴的な事件が中野にある築浅のマンションでも起こりました。この事件は2009年当時、マスコミに大きく取り上げられたので覚えている方も多いかもしれません。
30代の女性が交際相手の男に絞殺された事件で、実はこの2人は不倫関係にあったのですが、その出会い方がとにかく衝撃的な内容だったんです。
殺人事件が起きてしまった中野のとあるマンション。写真提供:大島てる物件公示サイト
加害者の男は探偵会社の社員で、「別れさせ屋」をしていたのです。
別れさせ屋というのは、例えば妻と別れたがっている夫がいるとします。ただ「妻が納得してくれない」「裁判では時間がかかる」「慰謝料を払いたくない」とさまざまな理由で、簡単には離婚できない。そこでプロの探偵を雇って、自分の妻を口説いてもらうのです。
妻の好きなものやよく行く場所、誕生日などの情報をすべて夫から聞いているわけですから、誰かが闇雲にアタックするよりは、成功率は高いでしょう。だって、やたらとあちこちで会って「また会いましたね」なんて、シチュエーションだって可能なわけです。そして浮気の証拠を手に入れたら、妻に突きつけ、有利な状況で離婚をするわけです。
被害者の女性も夫と結婚をし、子供もいました。ただ、夫が別れさせ屋に依頼をしたことにより、離婚することになりました。
通常であれば別れさせ屋の任務はここで終了するはずですが、別れさせ屋も満更でもなかったのか、なぜかこの2人はその後も関係を続けていたのです。別れさせ屋には妻子がいたにも関わらず、です。
しかしその後、別れさせ屋は勤めていた探偵会社とトラブルを起こし、その余波で一連の工作が女性にも知られてしまいました。事実を知った女性と別れさせ屋は口論となり、結果、女性は殺害されてしまったのです。
この事件がマスコミを騒がせたことで、探偵業界のルールが変わりました。
一般社団法人日本調査業協会は、別れさせ行為に関する厳しい自主規制を行い、基本的には別れさせ工作を受件させない取り組みを強化しています。
つまり、もし今あなたがネットで「別れさせ屋」と検索をして、ヒットしたら、考えられるのは2つです。1つはお金だけ払わせる詐欺。もう1つは悪い仕事も引き受けるまともではない探偵ということです。
さて、ここからは当時のニュースでも一切触れられなかった事実をお伝えします。実はこの話の冒頭で、事件が起きたマンションを“築浅”とお伝えしました。なぜ新しいマンションが建ったのか。
実は以前、その場所には木造のボロアパートが建っていて、火事で死者が出ていたのです。古い木造ですから、火のまわりは早く、全焼状態。その場所を更地にして、建ったのが殺害現場のマンションだったのです。
このマンションが建っているのは、治安の良いエリアで、周りに事故物件はありません。そんな環境でありながら、その土地だけ2人も死者が出ている。これはなぜなのでしょうかーー。
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今回は大島さんが特に印象に残っている事故物件を紹介してもらったが、サイトを覗くと、日本にはたくさんの事故物件が発生していることがわかる。事故物件は他人事ではないかもしれないのだ。