二条城での圧巻の展示、高木由利子『PARALLEL WORLD』
今回のKYOTOGRAPHIEのメインともいえる二条城 二の丸御殿 台所・御清所での高木由利子さんの展示『PARALLEL WORLD』も印象的でした。
高木さんは僕と同じく軽井沢にお住まいで少し親近感があるのですが、ここまで大掛かりな展示を観るのは実ははじめて。和紙にプリントされ、障子のフレームに「表装」されて吊るされた作品などは、決して過剰ではないながら、二条城の400年以上の歴史に負けず、この舞台でしっかりと存在感を放っていて圧倒されました。
会場では、高木さんが40年にわたって日常的に民族衣装を着ている人たちをモデルに撮影した『Threads of Beauty』シリーズと、80年代から撮り続けたコムデギャルソンやイッセイミヤケなどのクリエーション、ディオールのオートクチュールを撮り下ろした新作を含むファッション写真のシリーズとが同時にプレゼンテーションされています。
高木さんは「この二つの世界に共通の愛を感じた」とコメントされていましたが、これもひとつの“BORDER”なんだろうなと感じました。
2つの世界の間に“BORDER”があってはじめて、タイトルにもなっている”PARALLEL(並行)”という概念が生まれてくる。この並行世界は強くシンクロしていて、それぞれの世界をリスペクトしながらも、そこにある境界は越えられるものであるということ、さらには「その境界の先にあるもの」を、この展示は見せてくれていたように思いました。
また、高木さんは時代という概念にも似たようなアプローチをしていました。「今回の展示はファッション史を時系列に沿って網羅的にアーカイブしたというよりも、個人の好みでピックアップしたパーソナルなアーカイブ」と表現されていましたが、個人の嗜好という軸を据えることで、ファッションの世界における古さと新しさの間にある境界すら越えられるということが示されていました。
他ブランドの写真も展示する企画をディオールがスポンサーをするというのも、こういったコンセプトに対する見事な呼応だったのではないでしょうか。
ちなみに、会場のデザインは建築家の田根剛さんが手掛けていて、漆喰を使ったというマットな黒が写真をより引き立たせていました。
写真の表現の拡張を愉しむ
誉田屋源兵衛 竹院の間で開催されている石内都と頭山ゆう紀の二人展『透視する窓辺』では、世代の違う2人の女性写真家の作品のシンクロニシティを愉しめるし、両足院を舞台としたマリ出身の作家ジョアナ・シュマリの展示『Alba’hian』は、世界が新型コロナの苦境から明けていく希望を感じさせてくれます。
また、銀座のシャネル・ネクサス・ホールからの巡回になった京都文化博物館別館でのキューバの作家マベル・ポブレットの『WHERE OCEANS MEET』の没入感も外せません。
11回目のKYOTOGRAPHIEは、おそらく過去最高の完成度ではないでしょうか。世界各地のさまざまな世代の作家が写真というアプローチで「境界」に向き合っている展示は、目に見えない“BORDER”への気づきを与えてくれるはずです。