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2022.06.13

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ニュージーランド写真家トミマツタクヤが語る、かの地で知った“日本とは真逆”の幸福観

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自らの肩書を“ニュージーランド写真家”とするトミマツタクヤさん。

大自然の宝庫であるかの地の魅力、そしてそこで教わった“日本とは真逆”の幸福観について、詳しく伺った。

ニュージーランドの印象を一新した1冊のガイドブック

日本と同じ島国で、美しい海を身近に感じられるニュージーランドへは東京から11時間弱の空路で着く。国土の大きさは北海道と四国を除いた日本とほぼ変わらず、それでいて人口はおよそ500万人と東京23区民の半分ほど。
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日本の人口は約1億2500万人であるから、1㎢あたりの人口は、ニュージーランドが18人で、日本は330人となる。

この数字からは、ゆったりとしたニュージーランドと、ひしめき合う日本、といった印象を抱く。そして実際に現地を訪れると、豊かな自然環境のなかで穏やかに暮らすフレンドリーな人たちと触れ合える。

どこまでも続く美しいビーチはゴミひとつなく、景観に不釣り合いな人工的な建築物も見当たらない。

都会でも信号のない横断歩道に立つと車は必ずと言っていいほど停まってくれ、カフェやレストランではベビーチェアがあり、トイレはおむつ交換を想定したジェンダーフリーで使える大きなスペースのものがほとんど。

短期間の滞在でもネイチャー&ファミリーフレンドリーなお国柄であることをそこかしこで感じられるのだ。

さらにアウトドア天国という背景からワイルドな土地柄といったイメージを持ちやすいが、それも先入観でしかなかった。

思い込みを払拭してくれたのは『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来の国を旅するガイドブック』(ダイヤモンド社刊)という一冊。

同国を“北欧のセンスとハワイの大自然がハイブリッドされた国”と謳い、美しいグラビア写真や、美味しそうなフードが並ぶカフェ、清潔な宿泊施設などの情報が綴じられたものだ。

洗練された誌面からは“ウェルネス”的な暮らしが染み込む風土を連想させ、若い感性を持つ国であることを伝えている。主に撮影者として携わったトミマツタクヤさんによれば、やはり現代的な解釈を意識して制作に取り組んだのだという。

「ニュージーランドのイメージを一新したい思いは強くありました。多くのガイドブックを見ましたが、僕が肌で感じた“人の豊かさ”を伝えるものはありませんでしたし。

なぜこれほど豊かなのかという答えを、僕らなりに伝えたいと思い制作したのが、あの一冊なのです」。

サステナブル、オーガニック、シーズナブルといったキーワードが掲げられるなか、トミマツさんは特にローカルを重視したという。

「地元愛を感じられるスポットを意識して選びました。レストランであれば地元の食材を使うといったことです。

日本では国産という言い方をすると思うのですが、ニュージーランドの場合、たとえばワイヘキ島で収穫された食材だと“メイド・イン・ワイヘキ”と、その土地の名前を記す店が多く見られたのです。

むしろ食材が地産でない場合は、スタッフが恥ずかしそうな面持ちで教えてくれたりもしました。ローカルの食材を使うことに強い誇りを持っている姿は印象的でしたね」。

取材先の小さなこだわりを丁寧にすくい上げながら、トミマツさんたち取材クルーは北島と南島を車で巡ったという。

取材は総じて飛び込み。現地で得た情報源にもアポなしでの取材を敢行し、編集作業を経て2018年秋に初版を刊行した。
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人生における優先順位が日本とは真逆だった

ニュージーランド写真家 トミマツタクヤさん●1986年、福岡県生まれ。大学卒業後、大手企業に就職するも、2013年に世界一周を夢見てニュージーランドへ。しかし数カ月の滞在予定がライフスタイルや心の豊かさに衝撃を受けて1年4カ月を過ごすことに。帰国後は人生観を大きく変えてくれた同国の魅力を伝えるべくニュージーランド写真家として活動。www.tky15lenz.com

ニュージーランド写真家 トミマツタクヤさん●1986年、福岡県生まれ。大学卒業後、大手企業に就職するも、2013年に世界一周を夢見てニュージーランドへ。しかし数カ月の滞在予定がライフスタイルや心の豊かさに衝撃を受けて1年4カ月を過ごすことに。帰国後は人生観を大きく変えてくれた同国の魅力を伝えるべくニュージーランド写真家として活動。www.tky15lenz.com


この本を通じて感じるのは豊かさだ。それは物質によるものではない。トミマツさんも日本で知っていたのとは異なる基準で生きる彼らの姿に惹かれたという。

ニュージーランドでの体験が人生に大きな影響を与えたことは、自身の肩書を“ニュージーランド写真家”としたことにも示される。

ニュージーランドの魅力の伝道者でありたいと思い、ガイドブック取材などを通じて撮影した写真をベースに日本各地で50回を数える写真展&トークライブを行ったりもした。

そこまでして日本に伝えたいと思った魅力とは何だったのか?
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「まず、人生における優先順位が違うことが印象的でした。彼らが何よりも大切にしているのは家族なんです。2番目が自分の好きなことで、その次に仕事がくる。日本とは真逆だな、と。

それに国を挙げて子供を大切にしています。出産費用はゼロですし、産後はすぐにボランティアの人が国の援助としてケアに来てくれます。

それに母親が体調不良などの理由で子供のケアができない場合、父親が出社せずに育児を行うのは常識的な行動です。

愛する人、家庭を大切にするのは当たり前のことで、そのうえで趣味など自分の好きなことができれば、人生は上々なんです」。

競争社会を生きなくとも幸せに暮らせる社会の在り方は国のカタチが異なるためでもあるのだろう。

エネルギー自給率は日本が10%に満たない一方、ニュージーランドは80%。しかも’35年までに100%再生可能エネルギー化を目標にしている。

さらに日本が40%弱の食料自給率は400%。他国に多くを依存する必要のない状況が一因となって、彼らは自分の生き方をストレートに追求できる。

そこには日本と異なる“幸福観”があり、トミマツさんは大きく魅了された。というのも彼自身、中学受験を勝ち抜くなど幼少期から競争社会を生き続けてきた。

ただ、競争に勝っていた側だから疑問には思わなかった。しかし暗雲が立ち込めたのは社会に出たあと。

毎日満員電車に揺られる生活を何十年も過ごすのは本当に幸せなのだろうか。そのような思いが募り、また程なくして身体を壊してしまう。

システムエンジニアという長時間を着席して過ごす仕事から全身に歪みが生じ、腰を痛めた。しかも半年も歩行不能となる重病だった。
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