在宅勤務の浸透もあり、いっそうのカジュアル化が進むメンズファッション。靴もまさにその真っただ中。ドレス系の革靴よりもスニーカーや、同じ革製でもブーツのようにリラックスした雰囲気のものへの関心が高まっている。
ただそんな「ブーツ」といっても、実にさまざまな種類が存在するのは承知の通り。そこで今回は基本モデルを分類をしながら、各ゾーンの有名なモデルも含めて紹介。ブーツ選びの参考にしていただければ幸いだ。
まずはブーツの「丈」で種類分け
ブーツ(=長靴)が一般的なシューズ(=短靴)と決定的に異なるのは、起源や本来の用途に基づいた「最適な丈」が各種ある点だろう。
「アンクル丈」や「ショート丈」のように呼ばれたり、もっと具体的に「6インチ丈」「13インチ丈」などと表記するケースも多い。
ここでは短いものから順に並べるが、見栄えにも影響するためかこの「丈」、レディスではシーズン毎に大きく流行が変化する一方で、メンズは原典忠実というのか、「このブーツはこの丈」が決まっている感が強いのは興味深い。
丈の長さからブーツを種類分け
・デミブーツ一見シューズと見間違うかのような、踝を覆うか覆わないか程度の丈のもの。クラークスのローカットのワラビー(ワラビーブーツではないほう)が代表例だ。
・アンクルブーツ(ブーティ)「ブーティ」とも呼ばれる踝が隠れる丈のもの。こちらはチャッカブーツの多くやクラークスのデザートブーツなどが代表例だろう。
・ショートブーツ踝より上の足首が若干隠れる丈のもの。ジョッパーブーツやレッドウィングの6インチ クラシックモック(#875)あたりがこの丈とイメージしてもらえればいい。
・ハーフブーツ下腿部の半分程度を隠せる丈のもの。ロガーブーツやレッドウィングのエンジニアブーツなど、筒(シャフト)の高さが10インチ前後のものを指す。
・ロングブーツ膝下あたりまで隠せる丈のもの。乗馬用のライディングブーツなどだが、今日メンズでは日常生活ではあまり用いられない。
なお、さらに長い膝上丈のものは「オーバーニーブーツ」などと呼ばれ、こちらは釣りの際に用いるウェーダーズなどが当てはまる。
フィット感に違いが出る「足・脚への固定の方法」
足や脚への固定方法は、基本的にはシューズ=短靴と種類に変化はない。ただし、ブーツ=長靴の場合は固定する箇所が足の甲部や足首だけでなく、脚部にも及ぶ点に注意しておこう。
単に視覚的な違いだけでなく、両者のフィット感やサイズ選びの微妙な違いにも直結するするからだ。
なお、ここに挙げる以外にも、カウボーイブーツのように特段の固定方法を持たないブーツも存在する。
フィット感やサイズ選びに影響するブーツのデザイン
・靴紐ハトメに靴紐を通して締め上げることで足・脚を固定するタイプ。丈の長さやハトメの数の違いで印象が変わり、オールデンのチャッカブーツ(#1339)やトリッカーズのストウなど、数を上げればキリがない。
また、フィット感の向上や着脱の容易さを重視し、ハトメの代わりに「Dリング」や「スピードフック」を採用するケースもブーツでは多く見かける。
・ストラップバックルに革製のストラップを通して締め上げることで足・脚を固定するタイプ。ジョッパーブーツやレッドウィングのエンジニアブーツがこれにあたる。バックルの位置や色、それに大きさがブーツのデザインのポイントになることが多い。
・エラスティックサイドゴアブーツが典型例で、ゴムを練りこみ伸縮性を持たせた生地を踝に配置することで履き口を伸縮させ足・脚を固定するタイプ。ゴムが劣化しない限りはフィット感に優れるとともに、着脱もしやすくなるのが大きな特徴だ。
・ジッパー着脱を容易にするのを目的に、主に内踝側に装着したジッパーの開閉で足・脚を固定するタイプ。シューズに比べ筒(シャフト)があり、丈の長いブーツだからこそ効果がある意匠で、近年では修理を通じこの仕様にカスタムする人もいる。
起源別に見るブーツの種類と定番モデル
「丈」の箇所でも軽く触れたが、「そもそもの目的」がブーツのデザインにはシューズ以上に残っていて、靴というよりも人類の近現代史そのものかもしれない。
ここではその起源を幾つかに分けた上で、タウンユースで用いられる主だったものを、有名な商品を含めてご紹介したい。
なお、各ブーツの名称については別名や商標が数多く存在するだけでなく、全く異なる種類のブーツで同じ呼称が用いられてしまう場合も多々あることも覚えておいてほしい。
①ドレス的起源
・レースアップブーツ
オールデン「プレーントウブーツ(#4561H)」
4対以上のハトメに靴紐を通し、甲から足首にかけて締め上げるアンクル~ショート丈のブーツ。
例えばオールデンのプレーントウブーツ(#4561H)やホワイツのセミドレスなどが典型。19世紀末から20世紀はじめにかけて特に多く履かれ、基本的なデザインは今日のシューズ=紳士靴に引き継がれている。
なお、19世紀後半から20世紀初めにかけては、同様の丈ながらアッパーにハトメではなくボタンとボタンホールを配置しその開閉を通じて足と脚を固定する「ボタンアップブーツ」が大流行した。
しかし、微調整の難しさと製造の困難さ(革にボタンホールを作るのが何気に難しい)ゆえに、レースアップブーツに世代交代した経緯がある。
・サイドゴアブーツ ジェイエムウエストン「サイドゴアブーツ」
踝にエラスティック=ゴアを配置したアンクル~ショート丈のブーツ。
初めて履いたのは英国のヴィクトリア女王と言われ、即位直後に議会に登院する際のブーツとして開発されたようだ。ブーツとしては例外的に脱ぎ履きしやすいためか、それ以降フォーマル用途のみならず簡易的な乗馬用にも多く使われた。
戦後は一時期衰退したものの、1960年代初頭にビートルズが履くなどを通じ人気が復活。「チェルシーブーツ」「ジョッパーブーツ」「ジョージブーツ」など別称が多いことや、例えば同じトリッカーズのこのブーツでもランボーンとヘンリーとでは雰囲気が大きく異なる点なども、多様な履き方があることの証明だ。
②スポーツ的起源
・ジョッパーブーツ ジェイエムウエストン「ジョッパーブーツ #722」
足首・踝・踵に交叉上に巻きつけたストラップを、外踝にあるバックルで固定させるショート丈のブーツ。
”Jodhpur”とは19世紀中盤に英軍が駐留したインド北西部にある都市名で、彼等が履いた裾が細い乗馬用トラウザーズ=ジョッパーズに合わせ開発されたらしい。
激しい乗馬では、細い靴紐だと切れたり障害となる危険が高く、不快な小石や埃が入らないよう履き口を狭く閉じるためにもストラップとバックルでの固定が選ばれた。
バックルの意匠やストラップの太さで、印象が大きく変化するブーツだ。またストラップは後ろに引きバックルに収める「外巻き」仕様が大半だが、前に引く「内巻き」仕様も稀に見られる。
ジェイエムウエストンや今は亡きタニノ・クリスチーのものなど、古くからドレスシューズを得意とする靴メーカーのものにロングセラーが多い。
・チャッカブーツ オールデン「チャッカブーツ(#1339)」
足首部で2~3対と少なめのハトメに靴紐を通し締め上げるアンクル丈のブーツ。
19世紀末頃に英国でポロ競技に用いられていたブーツが起源とされ、語源もこの競技の1ラウンドを示す”Chukker”だ。ハトメが少ない分、ブーツとしては脱ぎ履きしやすい。また、シンプルな外観のおかげで合わせる服を選ばないためか、ブーツの入門には最適で広範な人気を保ち続けている。
オールデンのコードヴァン製のチャッカブーツ(#1339)が代表例。また、クラークスのデザートブーツは、この種のブーツをよりカジュアルに振ったアレンジバージョンと捉えることも可能だ。
クラークス「デザートブーツ」
なお、チャッカブーツと似て非なるものに「ジョージブーツ」と呼ばれるものも存在する。
こちらは足首部の3対のハトメに靴紐を通して締め上げるアンクル~ショート丈のブーツで、1952年に英国国王ジョージ6世の進言で陸軍将校向けに開発されたためその名が付いた。
チャッカブーツより丈が長く、ハトメも必ず3対かつその位置も高いので双方の識別は意外に容易で、日本未発売だが英国・サンダースのものが有名である。
・ハンティングブーツ
アメリカ北東部~北中部で開発された文字通り森林狩猟用のブーツで、大きく分けて2つの種類が存在する。
レッドウィング「6インチ クラシックモック(#875)」
1つ目は、レッドウィングの6インチ クラシックモック(#875)を代表とするレザー製のショート~アンクル丈のもの。北米先住民のノウハウを継承したモカシン縫い構造のアッパーや、湿地帯で扱いやすく足音も立ち難いヒール一体型のラバーソールを採用しているケースが多い。
エル・エル・ビーン「ビーンブーツ」
2つ目は、L.L.ビーンのビーンブーツが典型例で、アンクル~ハーフ丈で防水性を高めるべくハトメより下のアッパーをラバーとし、ソール・ヒールと一体整形しているのが特徴。
またソールのトレッドパターンもチェーン状の独特なもので、グリップ性に優れ、湿地帯だけでなく都会でも多雨・多雪時に大きな効果を発揮する。
・ラバーブーツ エーグル「パルクール ラバーブーツ」
ガムブーツの別名もある、文字通り全体が革ではなくゴムで一体成型されたブーツの総称だ。丈もさまざまで、用いるシーンも森林での狩猟からヨットの上まで多種多様。
いずれも水気の多い場所で、滑らず行動したい際に用いる点では共通だ。近年は街履きも多く見られるようになったハンターのオリジナルトールレインブーツやエーグルのパルクールラバーブーツが代表例だろう。
・マウンテンブーツ パラブーツ「アヴォリアーズ」
安全な登山のために考え出されたアンクル~ショート丈のブーツ。
微調整を容易にかつ確実に行えるよう、ハトメ以上にDリングやスピードフックが多用され、歩行時の横ブレを防いでくれる。
単に防水性能を上げるだけでなく、亀裂が原因の凍傷を防ぐため、アッパーにはワックス加工を施したスエードなどの堅牢で分厚いものを用いる場合が多い。より本格的なものは縫い目の上に防水剤でのシールを施すこともある。
パラブーツのアヴォリアーズは、この要素を街履きに最適化したブーツとして有名。
なお、このアッパーをナイロン素材にするなどの軽量化を施し、軽登山向けとしたものを「フィールドブーツ」「トレッキングブーツ」などと称する。
・モーターサイクルブーツ ベルルッティのモーターサイクルブーツ
「ツーリングブーツ」「ライディングブーツ」とも呼ばれるオートバイに乗る人向けに考え出されたブーツで、ショート丈が多い。
足元でギアチェンジ操作を行う必然性から甲の内踝側に補強の革が張られ、エンジンへの巻き込み防止のため微調整は靴紐ではなく踝のストラップとバックルもしくはハーネスで行うものが主流。
バイクの種類がさまざまなためか、イタリアのガエルネなどのようにこの用途に特化したブーツメーカーやブランドも多い。
③労働的起源=いわゆる「ワークブーツ」
・ロガーブーツ主に木こり(Logger)など森林で作業する労働者向けのショート~ハーフ丈のブーツ。
倒木から足元を守るためつま先には鉄芯が入り、急斜面での滑落を防ぐべくやや高めで端面に傾斜を施した通称「ロガーヒール」を採用するのが特徴。防水性や機密性を高めるため、アッパーの上層が着脱自在の二重のタンを付ける場合もある。
レッドウィングの9インチ ロガー(#9211)や、通常のモデルには鉄芯こそ入らないがホワイツのスモークジャンパーが代表例だろう。
・ペコスブーツ主に農作業に従事する人向けのハーフ丈のブーツなので、本来は「ファーマーブーツ」「ファーミングブーツ」などと呼ばれる。しかし、日本ではレッドウィングの商標である「ペコスブーツ」の名称のほうが有名だろう(ただし同社では現在廃盤)。
ちなみにその名は、米国南西部を流れる川から拝借したもの。微調整用の靴紐やストラップなどが付属しないシンプルな構造で、気持ちルースフィットなのが特徴。
・エンジニアブーツ レッドウィング「11インチ エンジニア(#2268)」
起源は工場労働者・技術者向けとも、鉄道の機関士向けとも言われるハーフ丈のブーツ。
機械による靴紐の巻き込み防止などのため、微調整は踝とブーツトップにあるストラップとバックルで行う。また足元を守るためつま先には鉄芯が入り、耐油性・耐滑性に優れたソールを採用する場合が多い。
今日では本来の用途ではなく、バイクの愛好者やロックミュージシャン御用達のブーツのイメージのほうが強く、レッドウィングの11インチ エンジニア(#2268)が有名だ。
・ラインマンブーツ電線敷設工事に携わる人のために考案されたとされるアンクル~ショート丈のブーツ。
彼らが高い電柱を容易に登ってゆく仕草から「モンキーブーツ」なる別名もかつては用いられていた。作業の性格上、指先のフィット感を格段に高める必要があるため、スニーカーと同様に靴紐とハトメがつま先の近くまで寄せられているのが特徴。
こちらもレッドウィングの6インチ ラインマン(#2904)や、現行品にはないもののトリッカーズのものがよく知られている。
・カウボーイブーツ リオス オブ メルセデスのウエスタンブーツ
「ウエスタンブーツ」の名でも知られる、カウボーイが乗馬の際に履くハーフ丈のブーツ。
騎乗時に鐙(あぶみ)への足の固定を確実にするための尖ったつま先、前面を弓状ではなく直線にカットした高めのヒール、擦り切れ防止と筒(シャフト)の強度維持を目的とした刺繍などが特徴。
さらに、堅牢性と軽量化を考慮した爬虫類革を用いるなど、数々の華やかな意匠は実用性を踏まえたものである。トニーラマやリオス オブ メルセデスなど、アメリカやメキシコのメーカー、ブランドが有名。
なお、カウボーイが騎乗時ではなく、牧草地などの地上で作業する際に履くハーフ丈のブーツは「ローパーブーツ」の名で区別される。カウボーイブーツと同様に刺繍を多用した華美なものも多いが、こちらは歩行性を考えたラウンドトウでヒールも低めだ。
ブーツの正しいフィッティング方法
デカ履きではなく「足にジャストフィットするサイズ」を決める際の基本的なフィッティング方針は、ブーツも他の靴と変わらない。が、試着の際に以下のポイントを押さえておけば、少なくとも「サイズを間違えた……」は確実に減らせるはずだ。
A. 試着の前に考えておきたいこと
ブーツをフィッティングする前に確認すること
・いつもツラくなる箇所を再確認する例えば「左足の薬指の先端がいつも靴にあたっているような気がして」とか「左足は問題ないのに右足だけ踵の靴ズレが起こりがち」みたいな状況だ。
これを事前に思い出しておくだけで、試着の際にそこをポイントに「このサイズならOK」「いくらなんでもこれは大き過ぎ」「このサイズだとやがて我慢できなくなる危険大」など、適切なサイズを判断できる手助けになる。
・足のムクみやすい時間帯と、ムクまない時との「差」を確認しておく足がムクむのは夕方と思われがちだが、実は人により大きく異なり起床時にムクむという人も冷え症の方を中心に多い。
足が最もムクむ時間帯に合わせて試着するのは難しいので、「ムクむときと今が、どのくらい違うかな?」を意識しながらの試着を心掛けたい。
・ブーツに合わせる靴下を考えるたかが靴下と言うなかれ。その厚み次第ではフィット感が変化するだけでなく、最適なサイズもハーフサイズ程度は変化し得るのだ。できれば試着には、合わせる靴下を履いたうえで臨んでほしい。
B. 実際の試着の際に気を付けたい5ポイント
試着の際に気をつけたいポイント
以下の5ポイントをチェックしつつ、複数のサイズを試着し、その中からベストなものを選ぶように心掛けよう。
・つま先靴のスタイルで異なるものの、親指の先端からは約10mm~20mmは空間を確保したい。この余裕代を「捨て寸」というが、これが無さ過ぎてもあり過ぎても、足と指を痛めてしまうので注意が必要だ。また左右方向では、親指と小指が靴の側面から無理な圧迫を受けていないことも確認しよう。
・甲足と指の動きの支点になる箇所だけに、キツ過ぎずユル過ぎずが肝心。特に靴の横幅が最も広くなる箇所=ボールジョイントの周辺について、試着時に出っ張り過ぎていないか、逆にプカプカと余っている空間が生じていないかをしっかりチェックしよう。
・土踏まず靴と足双方の土踏まず部が一致し、全体的に緩くもキツくもなく、インソールとアッパーでそっと支えられた上で足に軽く触れている程度がベストだ。
・踝踝全体を覆ってしまうブーツだからこそ鬼門になりがちなのが、実はここ。ブーツの中で踝が違和感なく収まっているか、試着時にはしっかり確認したい。例えばブーツの折り込み式の舌革と踝の前部とが干渉していないかもチェックしておこう。
・踵靴のヒールカーブが足の踵全体を包むように適度に喰い付いているかを確認したい。特にエンジニアブーツのようなハーフ丈以上のブーツでは、ここが足の踵より大き過ぎる=ユル過ぎると、靴が脱げやすくなる以上に靴ズレを起こしやすくなるので注意。