渡辺真史●1971年、東京都生まれ。ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。
▶︎すべての写真を見る 青山と新宿をつなぐ東京のカルチャーストリート、キラー通り。
そのアイコン的存在、ワタリウム美術館併設のミュージアムショップ「オン・サンデーズ」。店長の草野象さんを訪ねた。
渡辺 こんにちは。久しぶりにお邪魔しましたが、やはり1階奥のポストカードコーナーは圧巻です。年代別や作家別など、膨大な量が並んでいますね。
草野 1980年のオープン当初から、洋書やステーショナリーと一緒に扱っています。実用性を備えた身近なアートとでもいいましょうか。
渡辺 学生の頃はここでレアなポストカードを買って、海外の友人に手紙を送っていました。カードゲーム感覚というか。草野さんはいつからここで?
草野 学生アルバイトのスタッフでした。そもそもここは、学生たちが作った場所。オーナーの両親が営む「ギャルリー・ワタリ」の間借りからスタートしています。学生だから平日は学校に行って、営業は毎週日曜日のみ。だから、「オン・サンデーズ」なんです。
渡辺 それは初耳。昔からユースカルチャーに強くて、僕ら若い学生にも優しく接してくれましたが、そういう背景があったんですね。
草野 僕は単純に書店で働きたいと思ってアルバイトに応募しました。でも、初めての仕事が、手作りのオリジナルラバースタンプ作製。次が上映会用の映写機の回し方の勉強。予想とまるで違っても、それが楽しくてね。
渡辺 この空間を満たす全部が渾然一体となって、独特な空気感を生む。ハイセンスで、パンク的要素も感じます。フランスの芸術家、ジェイアールの展示は特に印象的でした。
草野 東日本大震災の被災者たちの顔写真を、この店の外壁いっぱいに貼り付けましたね。被災地を元気づけたいという作家の願いから生まれたプロジェクトで、現地に行ってなるべくポジティブな表情を写真に収めました。
渡辺 当時は、事務所がこの近くで、実際に見て衝撃を受けました。雨や風の影響で、時間の経過とともに写真が剥がれ落ちていく様子も情緒的で。
草野 本質はあくまで被災地にあって、だから現地でも同じ展示をしたんです。
渡辺 店での反響はどうでしたか?
草野 事前に説明して準備していますが、ときにはお叱りを受けることも。でも、こう見えてうちは地域密着型なので、皆さん理解してくださいます。
渡辺 40年以上も変わらずですから。
草野 ポップアップも行いますが、その都度のエッセンスを残しつつ、次の作品に切り替える。アーカイブ的側面を持たせています。たとえ30年ぶりに来店したお客様でも、当時の名残を感じる。そういう場所でありたいですね。
——本当に好きなもの、面白いと感じるもの。その蓄積はいっこうに古びれず、心地良い刺激を与えてくれる。次の日曜日は、楽しくなりそうだ。