渡辺真史●1971年、東京都生まれ。ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。
▶︎すべての写真を見る 渋谷区宇田川町に描かれる、アイコニックなグリーン&ホワイト。ホームセンター、「ハンズ渋谷店」。その店長を務める池田高博さんに、渡辺真史さんが話を聞いた。
渡辺 こんにちは。早速ですが、僕はハンズさんが本当に大好きで。美大生だった頃は、ほぼ毎日通っていました。
池田 それはすごい。うれしいですね。
渡辺 下の階でベニヤの木を切ってもらって、5階のデザイン雑貨コーナーに入り浸って。探しものはもちろん、探していなかったものまで見つかって。彼女との待ち合わせもハンズでした。昔はカフェもありましたよね。
池田 ありましたね! よくご存じで。
渡辺 文房具の50円引きチケットもだいぶ溜まってました(笑)。ところで、渋谷店ができたのはいつ頃ですか?
池田 1978年ですから、もう44年が経ちます。もともとは教会の跡地だったんですよ。各階が見下ろせるスキップフロアの構造は変わらず、階段の手摺りはオープン当初のものがいまだに使われています。店長になる前、ネジコーナーの担当が僕の原点でした。
渡辺 インチネジからミリネジまで、ネジも数えきれないほど買いましたよ。当時お会いしているかもしれませんね。
池田 渋谷店はやはりDIY用品が最大のウリですから、それこそ渡辺さんのようにお客さまの熱量がすごかった。スタッフも専門分野に対するプライドがあり、お客さまからの質問に答えられないようだと恥ずかしい。だから必死で勉強するし、フロアごとでライバル関係のような緊張感すらありました。
渡辺 大きい店なのに、細かいニーズにしっかり応えてくれる。来るほどに発見もあるし、どのフロアにいても安心感があるというか。ただの買い物に終わらない、特別な体験のための動線が引かれている。当時この店内をスマートに回れることはひとつのステータスでもありました(笑)。
池田 我々は、結果的にモノを売っています。ですが本質的には、お客さまが大切にしているモノを維持するためのお手伝いが仕事だと思うんです。
渡辺 それを渋谷のど真ん中でやることが、また素晴らしい。僕は、モノを作る楽しみをここで教えてもらった。想い出もたくさんあるので、ロゴのリニューアルを知ったときは驚きました。
池田 今春には慣れ親しんだ東急ハンズの看板が新たなロゴに変わりますが、それでも、我々の想いは変わりません。モノの使い方から質感まで、立体で感じられる場所。買い物が楽しくなる場所を目指し続けます。
渡辺 変わらないことも魅力だし、変わることも魅力。その両方を実感できるのが、“渋谷”の特徴なのかもしれませんね。ますます、期待しています。
——長年の歩みを反映してか、少しくすんだ白い壁。そのコントラストに、柔らかい冬の日差しと影が重なる。春はもう、遠くない。