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強烈なアウトプットの後は孤独というインプット



「ミュージシャンって、とてもあこぎな職業なんです。去年の11月にやった中野サンプラザのステージだと、2200人のお客さんを前に『みなさん、ようこそ!』ってやってるわけです。強烈なアウトプットなんですね、やっぱり。

だけど、ステージはやりがいと生きがいの場所だし、それなりの使命もあるから、バランスを取らないといけない。だからそれだけのアウトプットをした後は、だいたい山小屋に強烈なインプットをしにくんです」。

山小屋にはひとりで行くのが基本。他者とのつながりもなく、テレビやラジオもない。あるのはギターや音楽機材くらいだという。



「窓が大きくて一面が森なので、絵を置く必要もないんです。木々のざわめきや鳥のさえずり。あとは、青木隼人君っていうミュージシャンの『FOLKLORE』っていう素晴らしいアルバムをうっすらかけながら、ただそこにいる自分と何もしない退屈。

人とのつながりもなく情報もないので、結果的に孤独になるわけですよ。本当にひとりですから」。

森山にとって、この孤独こそが大切なインプットなのだと話す。

「孤独って、とかくネガティブに使われるフレーズだけど、僕は特権だと思ってます。孤独になると、正式に自分がちっぽけなものになるから。良い悪いではなく、ただそうなんだっていう。情報に踊らされたり、何かに執着している自分を客観視できる。

孤独になって自分をちっぽけな生き物だなって認識できると、他者が尊く、愛おしく感じるんですよね。つながりに改めて感謝もできる。他者と誠実につながるには、やっぱりそれぞれが孤独なんだということをしっかりわきまえることだと思ってます。きれいごとに聞こえるかもしれないけど」。


弾き語りアルバムの変わった収録方法とは

▲(仮)前田様、山小屋での収録風景の写真を何か一点お借りすることはできますか?

森山は今年1月、自身初となる弾き語りベストアルバム『原画I』『原画II』を同時リリースした。この20年で発表した曲のなかから全26曲を弾き語りで録音したものだが、レコーディング場所は森山の山小屋で、その制作方法も少し変わっている。

基本は録音機器をONにしたまま、森山が好きなときに好きな曲を歌うというスタイルで、森山の息づかいや足音、山小屋の環境音も含まれている。まるで、同じ部屋にいる森山がすぐそこで歌っているような臨場感があるのだ。

「コロナにかかってよぼよぼになっている時も曲を作ってたんですが、できたものを聴かせるために、ピアノで歌っている自分をスマホで撮影したんです。それを見たスタッフが『こういうのを聴きたいんですよね……』ってぽろっと言ったんですよ。

僕は真逆の気持ちですよね(笑)。いやいやピアノも下手だし、こんな状態の自分を誰にも見せられないよって。でも、とても生々しさがあったみたいで。もしかしたらこういうものにこそ、楽曲の原風景があるのかなってヒントをもらいました。それでできたのが今回の弾き語りアルバムです」。



2023年1月17日にリリースした、自身初となる弾き語りベストアルバム「原画I」と「原画II」。「さくら」「生きてることが辛いなら」を始め、アーティストに提供した楽曲もセルフカバーした全26曲を収録。書籍型CDパッケージになっていて、森山さん本人が全歌詞を手書きし、添えた挿絵で構成されている。

2023年1月17日にリリースした、自身初となる弾き語りベストアルバム『原画I』と『原画II』。『さくら』『生きてることが辛いなら』を始め、アーティストに提供した楽曲もセルフカバーした全26曲を収録。書籍型CDパッケージになっていて、森山本人が全歌詞を手書きし、添えた挿絵で構成されている。


ちなみに『原画』のサブスク配信はなく、当面はライブ会場の手売りのみ。路上で客の顔を見ながら演奏していた頃のように、目の前の人に丁寧に想いを託したいという森山のこだわりだ。

目黒パーシモンホールで行ったライブには1100人が来場し、1200枚が売れたという。想いはちゃんと届いているようだ。


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