言葉③「1つずつは飛び抜けた力が無くても、掛け合わさった瞬間に希少な存在になる」
Q:「自分が置かれた状況に不満」「自分の強みが分からない」といった悩みを持つ読者は少なくありません。ポジティブに自分と向き合うには、どのような考え方が必要でしょうか? 専門的な領域にいると、どうしてもそこを伸ばしていくことが大事みたいになっていくと思うのですが、そこは競争がすごく激しいじゃないですか。分かりやすい専門能力がなくても、「希少価値」がすごく大事だと思っていて、サッカーもできて、簿記もできて、キャリアコンサルティングの資格を持ってますのような掛け合わせであれば、「自分しかいないな」と。
1つずつはたいしたもので無くても、3つが掛け合わさった瞬間、一気に希少になったりするので、そういう意味で確固たる能力はなくてもいいと思います。
Q:他人と比べて秀でているかではなく、自分はこれができるというものを探していけばいいと? 評価する必要はないですが、同時に大切なのは結果を出すことかなとも思います。例えば、スポーツでいえば、個の力が揃っているチームとそうじゃないチームが対戦した時に、チームワークで勝つケースもあります。
それは確固たる強みはないけど、かけ合わせがうまくいっている。それは、そういう風にコーディネートしている存在がいたり、信頼できる素晴らしい監督がいたりとか、色んな要素があってそうなってると思うのです。つまり、個の力がなくても、結果を出したら文句は言われないのですよ。
Q:髙田さんにとって、特別な言葉や、印象的な言葉があれば教えてください。 私が研究の中で扱ったのが、ハンナ・アーレントっていう女性の政治思想家です。彼女はユダヤ系のドイツ生まれで、ナチスドイツの時代にフランスに亡命して、その後アメリカでずっと執筆活動した思想家ですけど、彼女は自分がユダヤにルーツがあるにも関わらず、ナチスドイツに対して、上の人に指示されて組織の中で正しいと思うことをやった「凡庸な悪」という言葉で表現した人です。
凡庸な悪っていうのは、ただ組織の中で言われたことをやっていただけ、その中では正しいと言われたことをやっていただけで、悪いことをしてしまうっていうことが起こりうると。
だからこそ、組織の中の価値基準にとらわれないことがすごく大事だなとも思えたし、「誰にでもそういう悪の部分がある」と常に考えておくことが重要なのかなと思います。ずっと大事にしてることですね。
Q:最後に、今後の髙田さんが見据えているものを教えてください。 本当にまだ漠然としてるのですが、やはり多様な人が多様であることを認め合って、みんなで平和に生きられる世界にしていくということが、今も達成したいことだと思っています。今現在でいえば、やっぱりWEリーグがもっとメジャーになって認知度を上げて、WEリーグが作っている多様な社会の価値を、より多くの人に知ってほしいですね。
髙田春奈(たかた・はるな) 1977年(昭52)5月17日、長崎・佐世保市生まれ。国際基督教大を卒業後、ソニー(株)で4年半勤務し「(株)ジャパネットソーシャルキャピタル」」を設立。2008年に東京大学経済学部、2015年に東京大学教育学部を卒業。2020年1月にJ 2V・ファーレン長崎の社長に就任し、2022年3月にJリーグ理事に就任(現在は特任理事)。2022年9月に、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)の第2代理事長(チェア)就任が発表された。