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パタゴニア本社ペンチュラキャンパス(c)Kyle Sparks

パタゴニア本社ペンチュラキャンパス(c)Kyle Sparks


パタゴニアは2023年で創立50周年。半世紀の間、迷い、試行錯誤と失敗を繰り返しながら事業を拡大してきたシュイナード氏だが、一方、おおもとにある思いは変わらない。パタゴニアが企業レベルで環境問題を真剣に解決しようとしているのと並行して、同氏が自分の生活レベルでも同じ思いのもと行動をとっていることがわかる一節を同書から紹介する。

「私は、昔からシンプルな生活を心がけてきていたし、環境の状態を認識した1991年ごろには、なるべく食物連鎖の下位側に属するものを食べたり物質的消費を減らしたりしていた。危険を伴うスポーツから学んだこともある。限界を超えてはならない、という点だ。ぎりぎりまでいくのは構わない。そもそも、そういう崖っぷちの瞬間を求めているのだから。

だが、限界を超えてはならない。自分に正直でもあらねばならない。自分の能力と限界を知り、そのなかで生きねばならない。同じことがビジネスにも言える。会社が身の丈を超えるものに手を出そうとするのが早ければ早いほど、全てを手にしようとするのが早ければ早いほど、死ぬのも早くなる。禅の考え方を取り入れるべき時だろう」。

同書には、シュイナード氏が若い頃、アイスクライミングや登山で自身が滑落したり、仲間を失ったりしたことや、経営が二進も三進も行かなくなって従業員を解雇せざるを得なくなったことも言及されている。ぎりぎりまでいくが限界を超えない──。その言葉は、限界にすらチャレンジしようとして仲間を亡くした経験や、経営上での苦い経験に裏打ちされたものだろう。

自分の能力と限界を知り、そのなかで最大限に生きる。「地球の限界」、「企業の限界」を知り、ぎりぎりで退く決断も厭わない─。スタンリー氏のインタビュー、そしてシュイナード氏の著書に現れた思いの双方に通底するのは、事業の形態やスケールは変わっても、地球や環境への思いから全てが始まっているということだ。マーケットのニーズ起点ではなく、地球や環境上の問題を解決したいという思いから出発して商品を生み出し、ビジネスとして展開していく──。

パタゴニアが展開するプロビジョンズ事業には、アウトドアウェア事業と同じ、創業者と社員の強い思いが流れているようだ。今年9月に発表された、同社の将来の利益を気候変動対策に充てるという方針も、この強い想いの延長戦にある決断なのだろう。

高以良潤子◎ライター、翻訳者、ジャーナリスト。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年よりAmazon勤務、プログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括するなど活躍。2022年より米国系大手エンタメ企業勤務。


高以良潤子=インタビュー・構成 石井節子=編集
Forbes JAPAN=記事提供

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