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2022.10.26

ライフ

クライマーから「パタゴニア」創業者へ。シマリスで飢えをしのいだ若き日々から成功まで

パタゴニア創業者 イヴォン・シュイナード氏(c)Campbell Brewer

パタゴニア創業者 イヴォン・シュイナード氏(c)Campbell Brewer

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら

「好きなことを仕事にする」ことが善とされる風潮が若者の仕事選びにおいて顕著に見られるようになって久しい。好きなことを仕事にできている人の成功例として、プロサッカー選手、プロ野球選手、プロクライマーなどのアスリートは頭に浮かびやすい。

一方で、高度なフィジカルパフォーマンスが要求されるアスリートは、現役時代が人生に渡って続かないことも多い。そのため、のちのセカンドキャリアを、アスリートとしてのファーストキャリアほど華々しく達成感のあるものにするのは簡単ではないだろう。

イヴォン・シュイナード。日本では、彼が手がけた製品のブランド名「パタゴニア」は広く知られていても、彼の名前はブランド名ほどは知られてはいなかったかもしれない。

だが、去る9月14日、イヴォン・シュイナード氏と家族は、パタゴニアの所有権を非営利団体などに譲渡すること、ならびにパタゴニアの将来の利益を気候変動対策に充てることを発表した。日本でも広く報じられたこのニュースによって、シュイナード氏の名前を改めて認識した人も少なくないかもしれない。

北米ではよく知られているシュイナード氏とは、一体どんな人間なのか。実は、パタゴニアの創業者という実業家としての顔は彼の二つ目の顔で、もともとはクライマーとしてのファーストキャリアで一流の実績を残し、知られた存在だった。周囲から見れば、パタゴニアの世界的成功は彼が納めた二つ目の世によく知られた実績であり、いわば「セカンドキャリア」としての成功だったのだ。

しかも、本人は「セカンドキャリア」という認識もなく、クライマーというアスリートの特徴からも、ファーストキャリアとセカンドキャリアとの間に明確な線引きもない。ただ、その時々で自身が興味があることに最大限に打ち込んできたことが、それぞれ一流の成功につながったようだ。

クライミングであれ、ビジネスであれ、変わらぬ真摯なスタンスで挑む─そしてシュイナード氏は近年、外から見ると「サードキャリア」とも言うべき新たなビジネスに力を注いできたのだ。

Jeff Jiohnson(c)2022 Patagonia, Inc.

Jeff Jiohnson(c)2022 Patagonia, Inc.


「シマリスやヤマアラシで飢えをしのいだ」若き日々

シュイナード氏は、アウトドアウェア企業、パタゴニアの創業者だ。現在83歳の同氏は、「おそらく1960年代最高のアイス・クライマー」で、若い頃はピッケルを突き立ててモンブランなど世界中の、傾斜70度に及ぶ険しい氷壁を登っていた。

彼の若き日の姿は、エベレストの遭難事故を描いた『空へ』や『荒野へ』で知られるアメリカのノンフィクション作家、ジョン・クラカワーの山行きを描いた作品『エヴェレストより高い山』(朝日新聞社刊)にも描かれている。


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