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2022.09.04

ライフ

コロナ禍でうつ病患者が2倍以上に! 経験者が語る、知っておくべき「心の回復力」

メンタリー 代表 西村創一朗さん Age 34●リクルート在職中に株式会社ヘアーズを創業。パラレルキャリアの実践者として活動後、2017年に独立。同年に双極性障害を発症し、3度のメンタルダウンを経験。自身の経験をもとに、’22年にココロのオンライン相談アプリ「メンタリー」をリリース。4児の父でもある。

メンタリー 代表 西村創一朗さん Age 34●リクルート在職中に株式会社ヘアーズを創業。パラレルキャリアの実践者として活動後、2017年に独立。同年に双極性障害を発症し、3度のメンタルダウンを経験。自身の経験をもとに、’22年にココロのオンライン相談アプリ「メンタリー」をリリース。4児の父でもある。

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長引くコロナ禍の影響か、ココロに何らかの問題を抱えたという人の話をちらほら耳にする。なかなかオープンにしづらいテーマだけに、実際にメンタルダウンを経験し、復活した人の話は貴重。

西村創一朗さんは今年、ココロのオンライン相談アプリ「メンタリー」をスタートさせた専門家でもあるわけだが、現状をどう見ているのか?

コロナ禍の影響でうつ病にかかる人が約2倍以上に

西村 正直、危険な状態だと思います。日本は諸外国と比較しても精神疾患の有病率が低く、うつ病の患者は120万人程度といわれていますが、潜在的な患者数は400万人以上になります。

加えてOECD(経済協力開発機構)の2021年の調査によれば、コロナ禍の影響でうつ病・うつ状態の人の割合はそれ以前と比較して約2.2倍に増え、約6人に1人(17.3%)にも達しています。自殺率も深刻で(上表参照)、G7の国々の中では残念ながらワースト1位です。



編集部 まさか1位とは……。ただ、有病率は低いのに、なぜ自殺率が際立って高いのでしょう?

西村 そこがポイントです。日本では医療機関の受診やカウンセリングを受けることに対する心理的なハードルが高い傾向にあるんです。その結果、ひとりで抱え込んでしまうことになり、症状を悪化させる人が多くなってしまいます。

石井 ひとりで抱え込む……。大いにありますね。メンタルの問題ってよほど親しい人でないとなかなか話しにくい。ちゃんと理解してくれるかどうか不安ですし、キャリアへの影響も気になります。

西村 私もそうでした。5年前にメンタルダウンを経験したのですが、当時はメンタルクリニックに対する偏見や恐怖心を持っていて……。そのため、半年以上もの間、ベッドから起き上がれないほど苦しむ日々を送ったんです。自ら命を絶つところまではいきませんでしたが、このまま命がなくなったら楽だろうな、なんて思うこともありました。

編集部 そこまでとは……、大変な経験でしたね。

西村 私は運良く同じような経験を持つ方に出会うことができて、その方の後押しによって病院へ行き、治療への第一歩を踏み出すことができました。もし、その方と出会えていなかったら、もっと長くひとりで苦しむことになっていたでしょう。

編集部 西村さんはラッキーだったということですね。

西村 そうなんです。だから、メンタルヘルスに不安を抱える方が、運や縁に依存することなく、誰でも経験者(公認メンター)にオンライン上で相談できるアプリを立ち上げることにしたんです。

小林 経験者の人に話を聞いてもらえるのは心強いですよね。

西村 メンタリーは「ピアサポート」に特化したココロの相談アプリです。ピアサポートとは同じ悩みや病気に苦しみ、乗り越えた経験を持つ当事者に話を聞いてもらったり、経験談を聞いたりすることで治療や症状の改善に役立てる手法です。

メンタリーに登録すると、約70人の公認メンター全員に、匿名で投稿する形で悩みを相談できます。メンターの経歴や専門分野はさまざまですが、相談者と同じようなメンタルの症状や病気で苦しんだ経験を持つ人たちです。

メンタルヘルス支援団体アールイー 代表 小林宣文さん Age 37●自動車メーカーなどを経て精神疾患領域の創薬ベンチャーを設立。2020年にうつ病を発症し退職。回復後はメンタルヘルス支援事業と並行し、フリーランスとしても活動を開始。ブログに書いた闘病記を西村さんが読んだことがきっかけでメンタリーの公認メンターとしても活動中。

メンタルヘルス支援団体アールイー 代表 小林宣文さん Age 37●自動車メーカーなどを経て精神疾患領域の創薬ベンチャーを設立。2020年にうつ病を発症し退職。回復後はメンタルヘルス支援事業と並行し、フリーランスとしても活動を開始。ブログに書いた闘病記を西村さんが読んだことがきっかけでメンタリーの公認メンターとしても活動中。


編集部 小林さんと石井さんもメンタルダウンの経験があると伺いました。

小林 はい、私は5年ほど前にうつ病を経験しました。当時は友人と設立した創薬ベンチャーを経営していたのですが、社内トラブルがきっかけで心身が不調に。常にトラブルのことが頭の中をぐるぐる回っている状態。とにかくひとりでいる時間が苦痛で、ほとんど眠ることもできなかった。苦しかったです。

編集部 すぐに病院に行かなかったのですか?

小林 10月末にダウンして病院を受診したのは年明けの1月末。精神疾患領域の創薬を行っていた会社でしたから、精神科・心療内科にはヒアリングのためよく足を運んでいたんです。

にもかかわらず、いざ自分が患者になると、抵抗を感じるんですよね……。結局、悪化していく私の状態を見かねたビジネスパートナーが私に病院で診てもらうよう勧めててくれました。

西村 きっかけは何であれ、受診できたのは幸運でしたね。

小林 うつ病かどうかを判断するチェックリストがあるのですが、その項目がことごとく自分に当てはまり、思わず背筋がゾッとしました。

抗うつ剤などを処方してもらったのですが、その薬が効いて眠っている間は悩みから解放され、快方へ向かう契機となりました。病院へ行くよう助言してくれたビジネスパートナーには感謝しています。



企業役員 石井大樹さん Age 31●自身が設立したITベンチャー企業の代表取締役の在職中にうつ病を発症。1年半にわたる闘病ののち、回復にいたる。事業を譲渡したあとはIT系企業の役員に就任。西村さんとはSNSで知り合い、公認メンターにスカウトされた。現在は育休を取得し、第一子の子育てに奮闘中。

企業役員 石井大樹さん Age 31●自身が設立したITベンチャー企業の代表取締役の在職中にうつ病を発症。1年半にわたる闘病ののち、回復にいたる。事業を譲渡したあとはIT系企業の役員に就任。西村さんとはSNSで知り合い、公認メンターにスカウトされた。現在は育休を取得し、第一子の子育てに奮闘中。


編集部 石井さんはどんな経験を?

石井 4年前ですね。当時はIT系ベンチャー企業を経営していました。代表を務めた8年の間、新規プロジェクトや部下との関係、資金の調達など、常に不安とストレスが隣り合わせ。そんなある日、人間関係が原因で緊張の糸がプツリと切れてしまったんです。

編集部 精神的に燃え尽きてしまったということですね……。

石井 仕事だけでなく、日常のあらゆることにやる気がなくなりました。いちばんヤバイなと感じたのは大好きだったオンラインゲームが1時間もプレイできない状態になったとき。眠れない日も続き、最終的にはベッドから起き上がることも難しい状態。ただ、僕の場合は経営者としてメンタルヘルスの勉強もしていたため、「これはうつかもしれない」とはうすうす感じていました。だから、ネットで検索して、最寄りのメンタルクリニックを受診することに。診断はうつ病と燃え尽き症候群でした。

編集部 受診したことで、すぐに快方へ向かいましたか?

石井 いえ、それが仕事を休めなくて、時間はかかりました。ちょうど会社を譲渡しようとしていた時期だったので、いろいろな手続きをしなくてはならなかったんです。処方してもらった睡眠導入剤を飲んで眠って、回復して起き上がれたら、手続きや打ち合わせをこなす、の繰り返し。なんとかやり遂げました。

西村 小林さんも石井さんもそうですが、仕事が好きで熱心に取り組んでいる人ほどメンタルダウンのリスクが高い傾向にあります。私が双極性障害とうつ病を発症したのも起業1年目でした。おふたりの「ベッドから起き上がることができない」という言葉、わかります。どれだけがんばろうと思っても、カラダが拒否反応を起こして起き上がることができないんです。


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