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2022.08.22

ライフ

「新しい経営​ビジョンに共感できない」という社員に、リーダーが最初にとるべきアクション


「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは……

本日の相談者:IT系マネージャー
「会社の経営ビジョンが示され、それに基づき従業員個人の評価指標も変更されました。しかし、古株の社員の中には『新しいビジョンに共感できない』と堂々と公言する者もいます。

ビジョンが浸透するまで時間がかかるのは仕方がないとして、このままでは若い社員にも悪影響がでそうで困ります。共感できないなら正直、会社を辞めてほしいとさえ思ってしまいます」。
アドバイスしてくれるのは……

そわっち(曽和利光さん)
1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。

人は急激で大きな変化は嫌う

よく「人は変化を嫌う」と言われており、今回のご相談もそのひとつの事例のように見えます。

しかし、一方で、人類がこれまで地球上で繁栄してきたのは、生物の中で最も変化に対応してきたからであり、「人は変化を好む」側面もあります。
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急激で大きな変化は嫌うかもしれませんが、十分に順応する時間や機会がありさえすれば、本来的には新しいビジョンに対してもポジティブになれていたかもしれません。

ビジョンの変更がどのようなものだったのかはわかりませんが、変化の方向性が間違えていないのであれば、変化をスモールステップに分けて、少しずつ慣れていってもらえれば良かったのに……と残念な気がします。
 

良いビジョンでも説明の仕方によっては共感されない

「ビジョンに共感ができないのであれば辞めろ」というのは、究極的には真理だと思います。

しかし、ちゃんと説明すれば、最終的には共感してもらえるのに、単なる説明の手順の拙さで共感が得られないときに、「そういうやつは出ていけ」というのは乱暴です。

今の会社にとって必要で、一定の合理性のあるビジョンなら、しっかり説明すれば、人は適応していくものです。もし、適切な手順で説明をしているにもかかわらず、それでも共感を得られないのであれば、それはそもそもビジョンがダメなのかもしれません。

逆に「良いビジョンなのになぜ共感されない」と思うなら、やはりそこは説明の仕方が悪いと思うべきでしょう。

人はwhatではなくwhyに動かされる



さて、企業組織に変革を起こす方法について研究した有名な理論にジョン・P・コッターの8ステップのチェンジマネジメントプロセスというものがあります。

そこでも最初のステップとして、まずは「危機感を生み出す」ことが必要であるとされています。そもそも「なぜ、変化をしなくてはいけないのか」という意識の準備を行うために、従業員に対して変化をすることで大きなチャンスが待っており、変化をしなければ逆にピンチに陥る可能性があることを示すということです。

『WHYから始めよ!』(日本経済新聞出版)の著者サイモン・シネックの言うように、「人はwhatではなくwhyに動かされる」のです。
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「なぜ」変化しなければならないのか

サイモン・シネックは、Apple社やキング牧師やライト兄弟の言説を例に挙げて、人の心を動かすのであれば「why(なぜするのか:目的)→how(どうやってするのか:方法論)→what(何をするのか:具体的なアクション)」の順番で説明をするべきだと言っています。

今回のビジョン変更についても、さまざまな議論をされてこられて、結果として新しいビジョンに結びついたのだと思います。

それなのに、最終的な結論だけを示して「こういうビジョンになったから守ってくださいね」とwhatだけを示しても、いきなり共感することは難しいでしょう。内容にかかわらず、心理的反発が生じるのが関の山です。
 

「うるさ方」から、衆知を集める

危機感を持ってもらえたら、次に「変革主導チームを築く」べきであるとコッターは言います。

要は、この変革の件に関して意見を持っており、そこでリーダーシップを発揮したいと考える人たちを巻き込むということです。
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組織には何事においても一家言持っている人がいます。いわゆる「うるさ方」の人たちです。彼らは、敵に回すと「俺は聞いていない」「違うと思う」などと撒き散らして面倒くさいのですが、仲間に巻き込むと組織内のインフルエンサーとして活躍してくれます。

今からでも遅くはないかもしれないので、今文句を言っている人たちから話を聞いてみてはいかがでしょうか。

主観・妄想・誤解・思い込み……を聞く

率直に「新しいビジョンにあまり共感できていないと聞いています。ビジョンについての理解を深め、改善するために、ぜひ意見を聞かせてほしい」と巻き込むのです。

しかし、それは論破するためではありません。どんなことが共感を阻んでいるのかを知るためです。相手の理屈がおかしくても、「なるほど、なるほど」と傾聴して、相手が持っている主観・妄想・誤解・思い込みなどの彼らの「心理的事実」を集めるのです。

それがわかれば、説得のしようがあります。正しいことを喧伝するだけでは、思い込みに包まれた反対者の耳には届きません。彼らの心理的事実に寄り添い、そこから説得をスタートするのです。
 

反対する「本当の理由」に手当をする



新しいビジョンが本当に適切なものなのであれば、それに反対する人の反対理由は非合理なものでしょう。非合理なものを主張する裏側には「本当の理由」があるはずです。

新ビジョン自体に本当は問題なくとも、トップダウンで決めて下ろす方法への反発や、旧ビジョンに対するノスタルジー、自分をないがしろにされたという感覚などから反対しているかもしれません。

それらの「本当の理由」にアプローチして手当てすることができなければ、いつまでたっても議論は平行線でしょう。反対意見の非合理性に憤慨するのではなく、なぜそんな非合理なものを訴えるのかを知るべきなのです。

グラフィックファシリテーター®やまざきゆにこ=イラスト・監修
曽和利光さんとリクルート時代の同期。組織のモヤモヤを描き続けて、ありたい未来を絵筆で支援した数は400超。www.graphic-facilitation.jp

曽和利光=文

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