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2022.07.08

ライフ

ストレッチに、ヨガに、レジャーに。畳文化を次世代につなぐ「イ草」アップサイクルマット

金井畳店とJAPAN MADEが開発した「tatami upcycle mat」

金井畳店とJAPAN MADEが開発した「tatami upcycle mat」


当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事。はこちら


畳の製造過程では、たくさんの「イ草」が使われずに余ってしまうのを知っているだろうか。

畳に使われるイ草は一定以上の長さが必要で、収穫されるイ草のうち条件を満たすものは約3割。残りの7割のほとんどは正規品に製織されることがない。一部はアウトレット品などに活用されるが、多くは焼却処分されるか、肥料として使用される。

そんな余ったイ草をアップサイクルしようと、東京・浅草橋の金井畳店と、“日本のモノづくり”を様々な形で発信している「JAPAN MADE」がプロジェクトをスタート。多目的で使用できるマット、「tatami upcycle mat(畳アップサイクルマット)」を開発した。
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(左から)「JAPAN MADE」編集長 河野涼、金井畳店の4代目 金井功

(左から)「JAPAN MADE」編集長 河野涼、金井畳店の4代目 金井功


日本人の「畳離れ」に危機感

プロジェクトが立ち上がった背景には、「畳離れ」への危機感もあった。

「畳のある生活環境を増やさなければ、畳屋の仕事は減っていく一方。新築の物件には、そもそも和室がないものも増えているので、既存ビジネスだけをベースにしていては、新たな需要が生まれることはないんです」

こう話すのは、浅草橋で明治時代から畳屋を営む金井畳店の4代目、金井功。2015年に先代から事業を受け継いだ金井は、その危機感からメイン事業を法人向けから個人向けに切り替え、持続可能な経営を探ってきた。

現代の家にもマッチする新しい畳を作ろうと考え、洋室に敷く「置き畳」やペットを飼っていても安心して使うことができる「わんにゃんスマイル畳表」などを展開。さらにECにも力を入れることで、これらの商品によって、店舗のある地域にとどまらず全国に顧客を増やしつつある。



とはいえ、畳離れは止まらない。金井は、それが畳屋だけでなく取引先のイ草農家にも大きなダメージを与えていることに課題感を抱いていた。そこで考えたのが、もっとカジュアルに日常生活に畳を取り入れられるような、新しい商品づくりだ。

その原料として思い浮かんだのが「畳にならないイ草」。正規品にできないイ草を何らかの形で活用できれば、イ草農家の新たな収入源となる。国産イ草農家の存続にもつながる、と考えた。
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すべての素材がアップサイクル

JAPAN MADEは「共息」をコンセプトに、日本のモノづくりの持続可能性を高めるべく活動するプロジェクト。河野が2016年に広告会社の社内事業として立ち上げたが、その後独立し、これまでに日本全国200カ所以上の工房を取材、その営みを紹介してきた。

河野は、立ち上げ当時に金井と出会い、取材やイベントなど長らく交流を続けてきた。そんな金井から、余った「イ草」の活用アイデアを聞き、JAPAN MADEの6人のメンバーとともにアップサイクルマットを企画した。



アップサイクルマットの着想はヨガマットから。
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「一般的なヨガマットのほとんどがPVC(ポリ塩化ビニル)でつくられています。ヨガは自然と一体化する行為でもあり、自然派志向のヨギーも多いので、イ草を使ったマットはニーズがあるのではと考えました」(河野)

アクティブなヨガには向かないが、軽いヨガには使用できる

アクティブなヨガには向かないが、軽いヨガには使用できる


また、イ草以外の素材もすべてアップサイクルの視点で採用。マットの裏地には、ワインのコルクを活用した「TOKYO CORK PROJECT」のコルクマットを使い、縁には、岡山のデニムブランド「ITONAMI」のデニム端材を使用した。

「ITONAMI」のデニム端材を使った縁

「ITONAMI」のデニム端材を使った縁


サイズは大小の2種類展開。大きさに合わせて、軽めのヨガ、ストレッチ、瞑想、昼寝、ピクニックシート、座布団、ラグ、インテリアなど、幅広いシーンで使えるよう工夫した。

大サイズ(横179cm x 縦65 cm x 厚さ0.5cm)が2万5000円、小サイズ(横96cm x 縦65 cm x 厚さ0.5cm)が2万円

大サイズ(横179cm x 縦65 cm x 厚さ0.5cm)が2万5000円、小サイズ(横96cm x 縦65 cm x 厚さ0.5cm)が2万円


従来の畳とは違う形で、消臭や抗菌、リラックス効果など、畳がもたらす本質的な機能・価値に触れてもらうことで、次世代にその魅力を伝えることも狙いだ。

天然素材を原料としている畳は赤ちゃんも安心して寝かせられる

天然素材を原料としている畳は赤ちゃんも安心して寝かせられる


畳文化が忘れられないように

JAPAN MADEにとって、商品開発は初の試みとなったが、河野は今後もモノづくりを通して職人の仕事や文化をより多くの人に広め、新たな需要を生み出すことを目指している。

「JAPAN MADEはメディアとして誕生しましたが、発信だけではなく、プロダクト開発やイベントの企画・実行なども含め、モノづくりに関することはなんでもやっていきたいですね」

金井もまた、国内外を問わず「畳文化」をたくさんの人に知ってもらうために、できることを模索している。

「今のまま畳屋が減っていくと、日本の畳文化自体が忘れられてしまいます。素晴らしさが忘れられ、利用される場面が減っていくことが辛い。従来の形にとらわれることなく、その魅力を伝えていきたいです」

尾田健太郎=文 田中友梨=取材・編集 小田光二=撮影
Forbes JAPAN =記事提供

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