OCEANS

SHARE

数多の苦難も喜びに変え、もうひとつの夢の実現へ

さて、本稿執筆中の3月末時点でカノア選手は世界ランキングのトップにいる。4月10日に始まる豪州での次戦は、その時点で世界の頂点に君臨するサーファーだけが着用を許されるイエロージャージーを纏う。

「気負った様子はありません。今のツアーにはアマチュア時代に王座を競った顔ぶれが多いんです。

だから試合には幼馴染みと戦っている感じで向き合っていて、おそらくサーフィンを始めた頃に掲げた目標も現実のものとして捉えているはずです」。

その目標とは世界チャンピオン。さらに今から6年後にはオリンピックがロサンゼルスで催され、サーフィン競技はハンティントンビーチで開催される可能性が高い。

’28年、カノア選手は30歳。「本人は、もちろんそのつもりですよ」と、王者として臨む地元開催のオリンピックで金メダルを獲得することが、家族全員で描く近未来のストーリーである。

と、このように記してくると順風満帆なサクセスストーリーに聞こえる。しかしその影で苦難は多くあった。

’01年のアメリカ同時多発テロ事件と、’08年のリーマンショックのときには失職。求人誌をめくる毎日を過ごし、アメリカ同時多発テロ事件のあとは、屋根の修理、歯科医院へのデリバリーサービスなど手当たり次第に仕事をこなした。

ついには自分だけが帰国して働き、生活費を送金することも覚悟した。だが、それでも現地からの撤退は頭になかった。

「生活が苦しいときも楽しかったんですよね。だって、すべてカリフォルニアでの出来事だから。

風邪にかかっても、カリフォルニアのウイルスや細菌が原因だと思えばうれしくて。それくらい、本当にカリフォルニアが好きなんです」。

西海岸カルチャーに魅せられ動き出した人生は、もう少しでひとまずの完結を見そうだ。苦難を乗り越えてきた親の背中を見て育った息子は、そう簡単に負けることはないだろう。

そうして今や多くの人の夢ともなった偉業が達成されたとき、カリフォルニアには新たな伝説が刻まれる。将来的に海を渡りうる、誰かにとっての憧れが生まれることになる。

THE SEAWARD TRIPのPodcastスタート!
毎週金曜の21時配信。本稿に収まりきらなかったエピソードを音声にてお届けします。音声配信アプリ「Artistspoken」をダウンロードして、ビーチカルチャーの第一線で活躍する人たちの物語をお楽しみください。



高橋賢勇=写真 小山内 隆=編集・文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。