“余りもの”を“良いもの”に
工場が在庫を確認し随時更新される残糸のサンプル。この見本がライテンダーのクリエイティビティの源だ。
「これが残糸です」と言って見せられたのは、色とりどりの糸が貼り付けられた見本帳。製品番号や原料名とともに重量が記載されている。
重量は「この糸が何kg余っているか」という数値だ。この数値は、ある意味でライテンダーのクリエイティビティの源泉になっている。
工場に積み上げられた残糸。膨大な量である。「今年1月にはファッション大国フランスで、売れ残った新品衣料の廃棄を禁止する法律が制定。今後こうしたサステイナブルの流れは世界中でどんどん加速していくはずです」(小池さん)。
「余っている糸で何を作るか。そこをスタートに考えるのが楽しいんです。例えば少量ずつ残っている糸を使い切るためにはどうすればいいか。
小池くんが頭を絞ってくれたのがマルチボーダーというアイデアだったり」(澤木さん)。
新作のボーダーニット「マーサーロングティー」。量の少ない残糸を逆手にとってマルチボーダーを製作した。カラーも全6色と豊富にラインナップする。各1万円/ライテンダー info@ryetender.com
「同じ糸でも編み方によって表情が変わってくるのが面白いですね。滑らかさを強調したり、逆にボリューム感を出したり。
その点もニットならではの強みだと思っています」(小池さん)。
そんな2人のチャレンジングな精神は、ライテンダーというブランド名自体にも込められている。
英語で余りものを“Left Over”という。その余りものを解消したいのだから、逆の言葉にしよう。つまり“Right Under”。
そこから語感やスタイリッシュな字面を考慮して行き着いたのが、“RYE TENDER(ライテンダー)”という名前なのだ。
長袖のニットポロ「マレーニットポロ」 は先シーズンからの人気アイテム。写真のラベンダーのほか、サンド(ベージュ)と黒が新色として追加された。裾出しでもタックインでも決まる、絶妙なサイズ感とシルエットが魅力。1万5000円/ライテンダー info@ryetender.com
こうしたコンセプトが現実的なビジネスとして成立する最大の理由は、澤木さんと小池さんの豊富な実務経験によるものであることは言うまでもない。
クオリティの高い“余りもの”は、澤木さんが信頼関係を築いてきた縫製工場とのコネクションがあるからこそ入手可能。
その“余りもの”を“良いもの”へと再構築するノウハウを、生き馬の目を抜くNY屈指のブランドで体得してきたのが小池さんだ。
ライテンダーは確かに原料の「アップサイクル」を通じて「サーキュラーエコノミー」を実現するブランド。でもそう書いてしまうと、サステイナブルの表層だけをすくいとったように聞こえてしまうのが歯がゆい。
だから、根底にあるのは2人の男の熱い思いと地道な努力であると、明確にしておきたかったのである。
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