良い話である。ジーンとしつつ、前出の「シルク」を注文。こちらは、ジンジャーの主張がさらに強い。
看板ママの広子さんが言う。
「耳の手術で入院したときに恵美が病院の待合室で言うんです。『ママ、耳が聞こえないんでしょ? 会社には私の代わりはいくらでもいるけど、ここを手伝えるのは私しかいないから』って」
恵美さんがこう返す。
「新部署に異動する話もあったけどお店を取りました。小さい頃は喘息がひどくて何度も死にかけたから、今はオマケの人生だと思ってるの」
ここでカウンターの客が壁のカレンダーに目をやる。ママいわく、「常連さんの誕生日をメモしてるの。空いてたら書いてもいいわよ」。
「俺、1月29日だからお言葉に甘えて書いちゃお。初来店なのに優しいね」
横須賀の人情を満喫したところでお会計をしよう。記念にカクテルの味を再現した「横須賀ブラジャードロップス」を購入した。
恵美さん、最後に読者へのメッセージをお願いします。
【取材協力】サタン住所:神奈川県横須賀市若松町3-13電話:046-825-9068 >連載「看板娘という名の愉悦」を読む 石原たきび=取材・文