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やがて、彼は初めてヒップホップの曲を聴いた。アフロマンの 「クレイジー・ラップ」という曲だが、歌詞にある「コルト45」という言葉がタイトルだと誤解されている。これが、現在の彼の音楽を特徴付ける教えとなった。

「ラップって、まともじゃなくていいんです。この曲では、男がその場にいる女子たち全員をどう口説き落としたか、そしてどう反発されるのかが表現されているんですよ」と説明する。「笑えますよね」。

2017年、ワイパフ高校に通っていたローさんは音楽の制作を始めた。友人とライムで掛け合い、ビデオゲームの「マインクラフト」で遊んでいないときは、あちこちを改造した自分のコンピューターで音楽制作ソフトをいじくっていた。

「いったん始めたら、楽しくなって」と言う。「もっといい曲を作ろうとハマったんです」。

自分はもう、海にクソを投げ込むハワイのガキじゃない。

音楽にハマったローさんは、寝室に間に合わせのスタジオを作って曲作りに励み、軽やかで陽気な音楽を、数多く、着実に生み出し続けた。2020年8月には、ソロプロジェクトを始めないかということで、初めてのミニアルバム『ハオレ』をリリースした。

「自分を1cm前進させるためだけに、ひとつのプロジェクトに心血を注ぐのは時間の無駄」だと語るローさん。「自分の音楽が周知されるまで、技術を磨き、より良い映像を公開し、楽曲を流すことに、ただただ集中するんです」。

ハワイのヒップホップでは、ハワイの人々が権利を求めたスローガンや、地元の路上生活の裏側に見えるものなど、さまざまなものが描かれる。これほど、悪びれることなく楽しめるものはない。ラッパーであり歌い手でもあるローさんの個性が色濃く打ち出される。

だが、彼はまだ自分のことをアーティストとは呼ばないだろう。「自分は、白人ではない少年で、楽しもうとしているだけなんです。好調なままいけば、その見返りがあるでしょう」と話す。

「発掘される不安はないですね。才能のある人は、毎日のように発掘されている。自分が発掘されれば、そっちに引き込まれてしまうんじゃないかってもっと心配になります。力の限りやることと、音の出し方を学んだら、もう終わっちゃうんですよ」。



これは予言のような言葉となった。この発言から数週間後、偶然彼の音楽に出会ったインディーズレーベル「アワル」が彼と契約を結んだ。

この契約により、「ロー」という読みはそのままに8Ro8へと改名することを発表した彼は、流通やプロモーションに関してはレーベルの力を借り、自身の音楽に関する版権と曲作りの管理体制をすっかり整えた。

「自分はもう、海にクソを投げ込むハワイのガキじゃない」と彼は言う。「今はジェットボートを手に入れたんです」。 

その点、『コダック・モーメント』は彼の初めてのヒット曲に相応しい。将来有望な才能の持ち主が手掛けたこの曲はあっという間に広まったが、今後数年のうちに、あるいはローさんが新たな曲を生み出すペースを考えるとおそらくもっと早く、この曲に取って代わる曲が生まれるに違いない。

私たちは、今回のヒットについて、10年もすればほぼ間違いなく揺るぎない勢力となっているであろうその幕開けのこととして思い出すだろう。メロディーはとりとめもなく私たちのもとに蘇り、幼き恋や、ヤシの葉の木漏れ日のある風景など、子どもの頃の空想に溶け込んでいくはずだ。

思い出深いひとときとして振り返ることになるだろう。だが、それはあくまでも「ひととき」にすぎない。

This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

ヴィンセント・バーカシオ=写真、エリック・スタントン=文
神原里枝=翻訳

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