OCEANS

SHARE

  1. トップ
  2. ライフ
  3. アニエスべーの海洋探査船「タラ号」が導く海の未来「活動を通して“海を知らない”ことを知った」

2025.04.26

ライフ

アニエスべーの海洋探査船「タラ号」が導く海の未来「活動を通して“海を知らない”ことを知った」

©Sacha Bollet // Fondation Tara Océan

©Sacha Bollet // Fondation Tara Océan


「The BLUEKEEPERS project」とは……
▶︎すべての写真を見る

海洋環境への関心が高いアニエスべー創設者のアニエス・トゥルブレさん。

彼女が購入した科学探査船は「海を守る」ことを使命に、50万km以上を航行し、各地の海を調査してきた。

同プロジェクトの中枢にいるのがロマン・トゥルブレさん。アニエスさんの甥でもある彼に聞いた、世界の海の実情、そして次なるミッションである北極探査の目的。
advertisement

海の将来は、暗い。何か手を打たなければ……

タラ オセアン財団 エグゼクティブディレクター ロマン・トゥルブレさん●フランス南部の地中海に面するアンティーブ出身。セイラーとして活躍する一方、ソルボンヌ大学で分子生物学修士号、パリ経営大学院でMBAを取得。未来世代のためにも「海洋を守る」ことを究極的な目標とする。

タラ オセアン財団 エグゼクティブディレクター ロマン・トゥルブレさん●フランス南部の地中海に面するアンティーブ出身。セイラーとして活躍する一方、ソルボンヌ大学で分子生物学修士号、パリ経営大学院でMBAを取得。未来世代のためにも「海洋を守る」ことを究極的な目標とする。


「環境の話をしていて子供の話になると、いつもこうなるんだ」。そう言って、大きな手をあてた目は潤み出していた。

プロのセイラーとして世界最高峰ヨットレースのアメリカズカップに2度出場する一方、生物分子学の修士号とMBAを持ち、極地のロジスティクス専門企業にも在籍。2006年からタラ オセアン財団の中枢を担うことになった彼に、環境活動への想いがより強まった転機を聞いたときだった。

それまでの柔和な表情から、子供たちを思い、彼らが生きる未来を案じる親の顔つきへ。次世代の環境は、海は、今のままでは暗い。行く末を熟知するからこそ案じ、親になったからこそ職務への責任感は増したと語った。

「09年に親になって、よく考えたら娘は2100年まで生きるんだなと気付きました。というのも、このまま何もしなければ、温暖化などで地球に住めなくなるのが2100年頃といわれていて。

何もせずにはいられないと、そんな思いが強まったんです」。

自身の亡きあとの世界も自分事として捉えられるようになり、「未来のため闘わなければいけない」とスイッチが入った。それまではファミリーの事業だから参加していたという意識が、ややあったという。

「タラ号のプロジェクトは、アニエスべーの創設者で叔母のアニエス・トゥルブレが、03年に船を購入して始まりました。前オーナーとは船に課された海や環境を調査するミッションを継承する約束もしていて。そこで『あなたやらない?』と声がかかったんです。

最初は“素晴らしい冒険が始まるぞ”という印象で。そこから意識レベルを高められたのが、娘の誕生でした」。

建造中のタラ極地ステーションは北極での新プロジェクト「タラ・ポラリス」の前線基地。1回につき約1年半に及ぶ探査では最大18名のクルーが滞在し、調査・研究を行う。

建造中のタラ極地ステーションは北極での新プロジェクト「タラ・ポラリス」の前線基地。1回につき約1年半に及ぶ探査では最大18名のクルーが滞在し、調査・研究を行う。©3D Kadeg Boucher_Architecte Olivier Petit // Fondation Tara Océan


これまでタラ号とクルーは75を超える国・地域の港に寄港し、多くの海域を調査。科学者に加えアーティストも乗船させ、より多くの人に実情を届ける努力をしてきた。

「20年に及ぶ調査を通してわかったこと。それは、私たちはいかに海のことを知らなかったのか、ということです。我々は多くの海洋生物、バクテリア、ウイルスを新たに発見しました。

調査に出れば出るほど新しい発見があり、海の全容解明など程遠い。そんな実感を得ています」。

未知なる海洋の調査をさらに活発化させていこうと考える同財団において、この先注力するのが北極海の探査プロジェクト「タラ・ポラリス」だ。

北極の調査は18年前に初めて行った。氷塊の中を1日10kmほど進む速さで507日間も漂流。水深3500mから高度2000mまでの範囲で連日多様な計測を行い、気候変動がどれほど進んでいるのか、北極にどのような影響を与えているのかを調べた。

海氷が急速に溶けている背景も調査し、冬の寒さ不足が要因のひとつだとわかった。氷は夏に溶け出すが、今日の大規模融解の背景には、昔に比べて冬の寒さが和らぎ、北極圏に形成される氷自体が少なく、薄くなったことがある。そのため極夜後に太陽が顔を出すと溶けやすくなってしまったのだ。

「実はもうすぐ完成する新しい船で20年にわたる探査を行う予定です。

極地の北極では日本やフランスなどに比べ温暖化が3〜4倍の速さで進んでおり、現状のままだと20年後の夏の北極には氷がほぼなくなるといわれています。その実情を継続的に調べていきたいと思っているのです」。

1回の航海で約1年半を要する北極探査を次の20年で最低10回実行。変化する気候変動の様子や、厳しい環境下で生き物たちはどう生き抜くのか、また生き抜けないのかを、他国の研究機関とも協働し記録していきたいという。
2/3

次の記事を読み込んでいます。