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2020.12.27

ライフ

大手商社を辞めて小さな山村のローカルベンチャーで働く男の幸福度は?


「37.5歳の人生スナップ」とは…… 

山林資源豊かな岡山県西粟倉村に暮らす羽田知弘さんが、どんなふうに林業と出会い、従事することを志したのかということを紐解いた前編

後編では、移住へ至る過程と、働き方、やりがいについて聞いてみた。

就職してわかった自分の理想


地域林業の発展のためにビジネスを展開する「森の学校」に魅力を感じながらも、羽田さんが新卒で就職したのは大手木材商社。しかし、1年足らずでこの会社を辞め、森の学校に転職し、岡山県西粟倉村に移住することになった。
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「最初に訪ねて以来、森の学校には何度か行っていたし、森の学校の人が東京に来たときに一緒にご飯を食べたりと、交流は続いていたんです。そうしたら商社に入社した年の夏に、『そろそろうちに来ない?』と誘われて」。

就職した大企業ではまだ何も成していなかった。でも、羽田さんはこのチャンスを掴むことにした。

「森の学校には、大学を辞めていくという選択肢も、新卒で行くという選択肢も捨てているわけです。僕、チャンスは3回までだと思っていて、このときのチャンスがその3回目。これを逃したらもうないなと思ったんです」。

森の学校には見学者も多い。彼らを案内するのも羽田さんの仕事。

せっかく入った大手商社、「まだ就職したばっかりなんですけど……」とも思ったという。しかし、大企業での将来は見ていて明らかだった。部長になるまでに20年かかり、そうしてそれは「会社の看板」での仕事なのだということが。

「新しく仕事作ろうとしても何個ハンコいるんや、と思って。僕はやっぱり、鶏口牛後っていうか、牛(大きな組織)の後ろにいるより、鶏(小さい組織)の先頭でいろんなことにチャレンジしたいな、と」。
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一本の丸太の価値をどこまで高められるか


大手木材商社から森の学校に転職した羽田さんの仕事は、ただの「木材の営業」ではなかった。「最初は僕も木材を売るつもりで行ったんですけど」というその仕事は、山林資源の価値をもっと高めるための企画と提案だ。

「僕が考えていた林業を稼げる仕事にするための方法は、とにかく丸太をいっぱい売れるようにになることでした。木材会社ならたくさん加工することが重要だと思っていました。でも、ここに来てわかったのは、そうではなくて一本の丸太の価値をどこまで高められるかということが大事だということ。

たとえば、丸太から木材を作るときに、ホームセンターでは売ってないようないろんな端材が出るんです。これを一般のお客様向けに販売したらどうだろうと『端材マーケット』をやったら、1日400人のお客さんが来て80万円の売り上げになりました。

燃やすか処分するかの不用品だったものに価値が生まれたわけです。この会社がなんでも面白がるからできることではありますが、そういうことを考えるのが、今とても面白くって」。
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羽田さんが今、森の学校で取り組んでいる事業は、イチゴ農園だ。一見、山林とは何も関係のないような事業だが、イチゴ狩りをきっかけにこの村に来た人に、DIYなどに挑戦してもらうスペースも作って、木材に親しんでもらおうというもの。



「しかもイチゴ畑の土壌には樹皮やおが粉などを使うんです。丸太の加工の過程で出る不用品をイチゴを育てるために活用しようと思っています」。

もしこの取り組みがうまくいけば、樹皮やおが粉は日本全国のいちご農家に向けた商品にもなり得る。

「自分たちが計画した事業がうまく行くかどうか、胃がキリキリすることもありますが、自分で考えて決めていけることがいい。

以前読んだんですが、神戸大学の調査によると、幸福度というのは健康であること、人間関係が良好であることに続いて、3つ目の条件は自己決定量の多さなんだそうです。西粟倉村に移住して僕が得たものは、そういうものなんだと思います」。
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