37.5歳からの愉悦 Vol.106
2019.08.15
LIFE STYLE

横須賀の老舗バーで、男性不信を克服した看板娘の話に聞き入った

シーズン連載「海辺の看板娘という名の愉悦」
酒を通して人を探求する大好評ドキュメンタリー連載、「看板娘という名の愉悦」。普段は首都圏の飲み屋街を練り歩く筆者だが、せっかくの夏。趣向を変えて、我々の大好きな「海」へと繰り出すことにした。この夏は、潮香る海辺で出会った看板娘たちに酔いしれよう。

横須賀の「若松マーケット」。新宿ゴールデン街を彷彿とさせる渋い飲み屋街だ。そこにある老舗バーにも「海辺の看板娘」はいた。

地図
北部にはアメリカ海軍施設も。((c) OpenStreetMap contributors

最寄りは横須賀中央駅。新宿駅から湘南新宿ラインと京急本線快特を乗り継いで、1時間ちょっとで着く。

駅前
駅前の様子は町田に少し似ている。

なお、横須賀は「日米海軍基地の街」であり「カレーの街」でもある。

スカレーちゃん
よこすか海軍カレーの公式キャラクター「スカレー」ちゃん。

せっかくなので夜の海も見ておこう。駅から10分ほど歩くと、猿島行きのフェリーの発着所がある三笠公園に着いた。そこには日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を破った記念艦「三笠」が停泊している。

三笠公園
対岸に見えるのは横須賀海軍基地。

さて、いよいよ「若松マーケット」に向かう。昭和の雰囲気がそのまま残った路地には約160の店舗が軒を連ねる。

若松マーケット
映画のエキストラかのように流しの紳士が歩いていた。

目指すのは創業56年、母娘3代で営業してきた老舗バー「サタン」だ。

外観
映画のセットのような入り口。

店内には看板ママと看板娘の姿があった。

内観
カウンターは大いに賑わっている。

いつものように「オススメ」のお酒を注文すると、すごいものが登場した。看板娘が言う。「横須賀ブラジャーです」。

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看板娘、登場

看板娘
「お待たせしました〜」

ブラジャー? 聞けば2011年に、ここ若松マーケットの街興しのために誕生したご当地カクテルだという。

横須賀ブラジャー
ブランデーをジンジャーエールで割るから「ブラジャー」。

店舗によってはオリジナルのブラジャーを考案しているそうだ。サタンの「シルク」もその一つ。

メニュー
こちらは後でいただこう。

さて、ご紹介が遅くなったが今回の看板娘は恵美さん(49歳)。生まれも育ちも横須賀で、高校を卒業後、大手化粧品メーカーに入社する。

「いわゆる美容部員ですね。新人の頃は先輩のメイク技術に感動しました。すっぴんだと誰かわからないレベルです」

過去写真
美容部員時代の恵美さん。

当時は出勤前のメイクに1時間かけた。

「2種類のファンデーションを塗って、指で引っ掻くと溝ができるぐらい(笑)。でも、母の入院を機に7年間勤めた会社を辞めてお店に立つことにしたんです」

そんな親思いの恵美さんに横須賀の見どころを聞いた。

「叶神社は西と東があって、それぞれの勾玉とお守り袋を合わせると願いが叶うといわれています」

叶神社
市内の東浦賀と西浦賀にある叶神社。

「あとは、7月8日から10月20日まで横須賀市とアニメ『ワンピース』のコラボでグルメ企画をやっていて、私も全キャラクターのスタンプを制覇しました」

ワンピースキャンペーン
抽選でいろんなプレゼントがもらえるそうです。

いかにも社交的に見える恵美さんだが、意外にも男性不信という一面があったという。

「小6で今と同じぐらいの身長があったせいか、しょっちゅう痴漢に遭っていたんです。10歳ぐらいのある日、横浜のデパートで同じおじさんに2回連続で痴漢されました。頭にきて『女だと思ってナメてんでしょ!』と言ったら走って逃げましたけど」

似顔絵
「こんな感じの浅黒いタヌキみたいなおじさんでした」。

以来、「男性教師が近付くだけで鳥肌が立つ」レベルの男性恐怖症になった。美容部員の仕事はほぼ女性相手だから苦にならない。しかし、バーの接客は男女比が逆転する。

「この店に立つと決めてからは正直心配だったんですが、意外にもすぐに慣れました。むしろ、自分が知らない話をたくさん聞けてすごく楽しい」

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良い話である。ジーンとしつつ、前出の「シルク」を注文。こちらは、ジンジャーの主張がさらに強い。

シルク
ヨコスカベーカリーのソフトフランスパンをお裾分けしてくれた。

看板ママの広子さんが言う。

「耳の手術で入院したときに恵美が病院の待合室で言うんです。『ママ、耳が聞こえないんでしょ? 会社には私の代わりはいくらでもいるけど、ここを手伝えるのは私しかいないから』って」

恵美さんがこう返す。

「新部署に異動する話もあったけどお店を取りました。小さい頃は喘息がひどくて何度も死にかけたから、今はオマケの人生だと思ってるの」

母娘
息の合った母娘の掛け合いトークが続く。

ここでカウンターの客が壁のカレンダーに目をやる。ママいわく、「常連さんの誕生日をメモしてるの。空いてたら書いてもいいわよ」。

誕生日シート
創業56年の歴史を感じる。

「俺、1月29日だからお言葉に甘えて書いちゃお。初来店なのに優しいね」

誕生日シート
ちなみに恵美さんは7月8日、ママは8月15日。

横須賀の人情を満喫したところでお会計をしよう。記念にカクテルの味を再現した「横須賀ブラジャードロップス」を購入した。

ママ
横須賀土産の定番として人気上昇中。

恵美さん、最後に読者へのメッセージをお願いします。

メッセージ
筆圧の弱さにやさしい人柄を感じる。


【取材協力】
サタン
住所:神奈川県横須賀市若松町3-13
電話:046-825-9068

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石原たきび=取材・文

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