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原宿のラーメン店で、ストイックな修行を続ける看板娘を応援した
看板娘という名の愉悦 Vol.17
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
原宿に看板娘がいると聞いた。しかも、食べログの評価が3.5を超えるラーメン店にだ。
原宿駅の竹下口を出て左へ。ゆるやかな坂を上ること約1分。ラーメン店が集まる一角に着いた。
周囲では「AFURI」、「せい家」などがしのぎを削る。
今回訪れたのは「Noodle Stand Tokyo」。2017年9月にオープンしたばかりで、美味しいラーメンを安心して食べられる「ETHICAL&RAMEN」をコンセプトに掲げる。
看板娘の名前は嶋津実穂さん(24歳)。店では「シマちゃん」と呼ばれている。さっそく、生ビールを注文した。
シマちゃんは福島県いわき市の出身。そして、ただのバイトではない。ラーメンに惚れ込み、将来、自分のラーメン店を出すために修行しているのだ。
「2015年に上京したんですが、いろいろと食べ歩いて、ようやく見つけた自分好みの店が赤羽にあった『ミライゑ』。そこの店主が、こちらの西巻さんです」
身長148cm。鈴の鳴るような声で、時折、福島弁が混じるところが非常に良い。
「原宿、渋谷、青山辺りで勝負したかった」と言う西巻さんは、ほぼ原宿駅前のこの物件をたまたま見つけて移転を決めたそうだ。
「シマちゃんですか? かわいいから面接で会った瞬間、合格(笑)。でも、それ以上にラーメンに対する情熱がビシビシ伝わってきました」。
彼女の趣味は、やはりラーメン店巡り。全国のラーメン店が参加する「ラーメンラリー」でもらえる特製ビックリマンシールも集めている。
自作のラーメン研究もストイックに日々行なっている。
シマちゃんの熱い解説を聞いてみよう。
「ガラはラム骨、ゲンコツ、豚足、モミジを使用。スープの匂いが強いので、トッピングのチャーシューやレンコンはすりおろしたリンゴで味付けしています。さらに、スダチ、イタリアンパセリ、パリパリ食感のゴボウフライを添えました」。
この本気度、わかっていただけるだろうか。西巻さんによれば、「スジはいい。あとは経験だけ」。
中学時代は卓球部で写真はマイラケット。今も池袋のラウンドワンなどでプレイしているそうだ。また、御朱印帳集めにもハマっている。
よく考えたら、ここは明治神宮と東郷神社に挟まれた場所。ものすごいパワースポットなのではないだろうか。
「私の周りでは御朱印帳集め、けっこう流行ってますよ。ラーメンつながりで仲良くなった女の子といっしょに、神社とラーメン屋さんをめぐる散歩が楽しいです」。
シマちゃんは中学時代にビジュアル系バンドに傾倒していたことも含め、見た目はそっち系だが、自身は「中身はおじさん」と評する。西巻さんが横から「まあ、乙女の部分もあるから乙女おじさんだよね」と擁護する。
この風貌なので、初対面の人とは「美容師?」「いえ」「バンドマン?」「いえ」「何者?」「ラーメン屋です」などというやりとりもしょっちゅうあるそうだ。
さてさて、肝心のラーメンだ。
メニューを見ると、どれも美味しそうで迷う。
決めかねてシマちゃんにオススメを聞くと「お店のイチ推しは『牛煮込みまぜそば』です!」。よし、それをいただきます。
すると、やおら麺を茹で始めた。えっ、シマちゃんが作ってくれるの? 驚いていると、「麺上げも含めて全部できるから、そんなに混んでないときは任せています」と西巻さん。
ほどなくして、シマちゃん特製の「牛煮込みまぜそば」が運ばれてきた。
これが、本気で美味しかった。トロトロに煮込まれた牛のスジ肉とスネ肉。そして、天然醤油、赤ワイン、トマト、スパイスの香り。箸を置いて西巻さんとシマちゃんに深々と頭を下げる。
そういえば、シマちゃん。自分のお店を出すとしたら場所と店名はどうしますか?
「やっぱり、故郷のいわきで出したいですね。店名かあ、どうしよう」。
「いわきは海に面した街だから『オーシャンズ』にしたら?」と提案すると、ニヤニヤするだけで返答はなかった。
まあ、ご検討だけいただければ。気を取り直して、読者へのメッセージをお願いします。
【取材協力】 Noodle Stand Tokyowww.noodlestandtokyo.com 石原たきび=取材・文