2020.08.30
HEALTH

管理栄養士が説く「ビール=糖質オフ=ダイエット」という妄信のカラクリ

「カラダのメンテナン酒」とは……

前回は「ビール=プリン体=痛風」という迷信のカラクリが明らかになった。

痛風を警戒する場合、プリン体とビールの因果関係は薄いことが理解できたが、「ビールで痛風にはならなくとも、太りはするのではないか」という不安は拭えない。そこで気になるのは、糖質やカロリーの存在である。

今回は、メタボリックシンドロームの人へ向けた保健指導などを行なっていた管理栄養士、横川仁美さんに話をうかがい、ビールと「糖質」、そしてビールと「カロリー」の真実に迫った。

話を聞いたのは……

横川仁美●管理栄養士。食と健康・美容を繋ぐ「smile I you」代表。メタボリックシンドロームの人へ向けた保健指導を中心に、ダイエットサポート、電話相談、雑穀販売などを通して食のアドバイスに携わる。現在は、食事・栄養・食材のコラム執筆・監修、レシピ作成を中心に活動中。

ビールの「糖質」は本当に悪の権化か

「ビールは太るのか問題」を考えるうえで、もっとも恐ろしいのは糖質ではないだろうか?

健康を維持するうえで、糖質はなくてはならない重要な栄養素のひとつ。だが、ダイエット中などは悪の権化のような扱いをされるのが常である。

しかし、「血糖値は気になるけどビールが飲みたい!」「ビール腹でもビールが恋しい!」と叫ぶビール党は世界中に溢れている。そんな彼らに救いの手を差し伸べようと、「糖質オフ」を謳う商品も人気を集めているが……

「糖質が多いイメージのビールですが、実はそれほど多く含まれていません。350mlのビールで糖質量は10.9g。500mlでも15.6g程度ですね。お茶碗一杯分のご飯(150g)が55.2gですから、比較するとビールはだいぶ糖質が少ないことになる。この程度の糖質量であれば、日常生活で十分調整できます」。

茶碗一杯のご飯は350mlのビール5缶分、つまり1750ml分にもなるのだ。炭水化物の量を微調整すれば、少なくともビールの糖質を過剰に心配する必要はない、という説明にも説得力がある。逆に言えば、定食屋で「ライス大盛り!」が口癖のわんぱくタイプこそ、立ち止まってみたほうがいい。

なぜなら、ご飯を大盛り(240g)にした場合の糖質量は88.3g。つまり、ご飯を普通盛りから大盛りに変えるだけで、350mlのビール3本を茶碗によそっている計算になる。

いくらダイエットのために糖質オフのビールを選んでも、たったひと言「ご飯大盛りで!」と言うだけで水の泡。俺が味わいたいのはビールの泡ではないのか、と自問自答してみよう。

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ダイエットのラスボス? ビールの「カロリー」の真実

では、カロリーはどうか。糖質はさておき、カロリーが高いのであれば結局は太るのではないか。そう疑っているビール党は一度落ち着いて、横川さんの話の続きに耳を傾けよう。

「ビール500mlあたりのカロリーは約200kcalで、鶏の唐揚げ2つと同じくらいです。そう聞くと『ほら、ビールは太るんじゃないか』と思われそうですが、アルコールのカロリーは吸収後、優先的に体温の上昇や血行促進などに使われ、エネルギーとして消費されていきます。唐揚げなどの食べ物と違って、カラダに蓄えられにくいとされているんです」。

確かに酒を飲むとカラダが「カーッ!」と熱くなるが、それは肝臓で代謝されたアルコールが「酢酸」に変わり、それが体内でエネルギーとして燃焼しているからなのだという。

「糖質オフやカロリーオフなど、消費者の希望に沿った商品は魅力的に感じるかもしれません。しかし、必ずしも健康のためには代替商品がいい、とは言い切れないんです。それらを利用することで、安心しすぎて飲みすぎたり、食べ物を食べ過ぎては意味がないからです」。

人はビールでは太らない。ビールとともに食すツマミで太るのだ――とは、誰もが一度は耳にしたことがある“説”だろう。これはビールの炭酸やホップの成分が胃壁を刺激し、食欲増進効果が生まれるためだと言われている。

ビールの糖質やカロリーを気にするよりも、気にすべきはツマミの糖質やカロリー。よもや、締めにラーメンを食べておきながら「あっちゃ〜、昨夜はビールを飲みすぎたからちょっとカラダが重いな」などとビールに責任転嫁してはいまいな?

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ビールでアンチエイジング!? 耳寄りなビール小話

ここまでビールに含まれるプリン体やコレステロール、糖質、そしてカロリーに関する真相を追及してきた。ここまで読んだビール党は今後、より一層ビールを美味しく感じるに違いないが、「もっと皆さんにビールの栄養や効能を知ってほしい!」と横川さんは言う。

「ビールの原料である麦芽やホップには、カラダにもお肌にもうれしい成分がたくさん含まれているんですよ」。

なんと!「ビールでは太らない」というだけでも朗報なのに、美容にいいだって? それはいい意味で寝耳にビールである。しかし、そんな虫のいい話があるだろうか。横川さんが挙げたビールの美容成分は次の通りである。

・ビタミンB2:脂質の代謝をサポートするのでダイエット中に積極的に摂りたい成分。
・ナイアシン:ビタミンB群のひとつで糖質、脂質、たんぱく質がエネルギー源になるときの補酵素として働き、美容に欠かせない。
・カリウム:体内の水分バランスをコントロールする働きがあり、高血圧やむくみの予防効果がある。
・ポリフェノール:抗酸化作用があり、生活習慣病の予防に役立つ。

そして特に注目すべきは、無濾過のビールに含まれる「ビール酵母」だとか。

「ビール酵母には、たんぱく質や必須アミノ酸、各種ビタミン・ミネラル類、食物繊維などをバランスよく含むことから、整腸作用をはじめ、血圧安定やアンチエイジングなどの効能が期待されています」。

無濾過ビールは通常のビールよりも旨味が凝縮されているうえに、飲みながら美活もできてしまうという優れものなのだ。

かつて無濾過ビールと言えばベルギービールやクラフトビールなど、数えるほどしかなかった。しかし、近年では大手メーカーも開発に力を入れており、以前よりもずっと入手しやすくなっている。

頭ごなしに「ビール=太りやすい酒」と誤解していては、健康を守るどころか、損さえしかねない。迷信に惑わされず、ビールに詰まった栄養や効能を理解したうえで、シュワッと爽快な夏を過ごそう。

「厚生労働省の示す飲酒ガイドラインでは、『節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコールで20グラム程度』の飲酒と定義しています。ビールでいえば中ビン1本くらい。糖質やカロリーだけでなく、ちゃんとアルコール量にも注意しながらお酒を楽しみましょう!」。

「カラダのメンテナン酒」とは……
気持ちイイ酔いに身を委ねる。やはり酒は人生を豊かにしてくれる……なんて思いつつ、頭の片隅にいつもチラつく「健康」の2文字。心もカラダも潤す、正しい“メンテナン酒”論。上に戻る

七瀬あい=取材・文

# ダイエット# ビール# 健康
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