四谷のベルギーバルで、宇都宮出身の看板娘に地元の餃子事情を聞いた
記念すべき取材再開ひとり目の看板娘は四谷にいた。

今回訪れたのは「YOTSUYA BREWERY(ヨツヤ ブルワリー)」。ほかではなかなかお目にかかれない銘柄を含むベルギービールを60種類以上と7種類の樽生ビールを取り揃えている。

オススメのドリンクを聞いてみた。
「いちばんよく出るのは樽生の『ヒューガルデン・ホワイト』ですね。私も水の次にたくさん飲んでいます」。
頼もしいお答えだ。では、970円のスモールサイズをいただきましょう。

樽生は看板娘自らがサーバーから注いで持ってきてくれた。
看板娘、登場

こちらは宇都宮出身の小百合さん(29歳)。毎日15時に出勤して17時からのディナータイムに向けて準備を行う。
フードは「ムール貝のヒューガルデン蒸し」(1720円)と「フリッツ」(720円)。

今宵のご馳走が揃った。ヒューガルデンの酸味が蒸すことによってムール貝の旨味を引き立てるという。要は日本酒の酒蒸しと同じ要領だ。
「フリッツ、いわゆるフライドポテトはベルギーが発祥なんです。ジャガイモは二度揚げしています」。
樽生の注ぎ方にもこだわりがある。

「泡のキメが細かくなるように注いでいます。どうしてもロスが出るので、ほかのお店よりは値段がちょっとだけお高めなんです」。
さらに、ベルギービールは銘柄ごとにグラスとコースターがセットになっているそうだ。

サクサクのフリッツにマヨネーズがよく合う。ちなみに、120円〜170円で特製マヨネーズも選べる。

さて、小百合さんが生まれ育ったのは宇都宮。ならば、この質問をするしかない。市内でイチ推しの餃子店はどこですか?
「いちばん食べ慣れた味という意味では『正嗣』ですね。家族で行ったり、テイクアウトで買ったり。雑誌とかにはいっさい載りませんが、地元の人には大人気のお店です」。
取材拒否。メニューは焼き餃子と水餃子のみ。ライスもビールも置かないというストイックな店とのこと。

「近くに美味しいお店がたくさんあるので、家で餃子を作った記憶はほとんどないですね」。
小百合さんのこのひと言から、常連さんと「スーパーで材料を買って、ここで作ろうよ」という展開になった。

そんなお茶目な看板娘、身長は147cm。「179cmの兄に全部取られました」と言っていた。
「小学生の頃から整列のときは常に先頭。腰に手を当てるポーズも慣れたものです(笑)」。

「困ることですか? 電車のつり革に掴まれないし、荷物を網棚に乗せることもできません。このお店で働くことが決まった際に脚立を買ってもらいました」。

外を行き交う人々が傘をさし始めた。雨が降り出したようだ。こういうとき、オープンエアーの酒場は非常によい。

大学卒業後に就いたのはジュエリー販売の仕事。客層は50代、60代のマダムが中心で、孫のようにかわいがってもらったそうだ。
「なぜか、手作りのおにぎりをくれるおばあちゃんもいました。そのあとでアプリゲーム会社の人事に転職したんですが、私はやっぱり接客業が向いているなあと」。

そんなわけで、縁あって四谷の看板娘になった小百合さん。オーナーの玉川幸男さん(44歳)は彼女をこう評価する。

「仕事ができるし、お客さんの受けもいいですね。なんだかんだ言って、僕より周りが見えているかもしれません」。
こっそりと聞いた酒癖もキュートなものだった。
「居酒屋でもここでも、酔うと椅子から降りてしゃがみます。気を遣って横にしようとすると怒られる(笑)。その体勢がいちばん落ち着くんだそうです」。
そんな小百合さんが最近ハマっていたものは四ツ谷駅構内のガチャガチャ。
「『シャクレルプラネット』っていうシリーズがあって、酔った勢いで買ったのをきっかけに集め始めました」。

いろんな動物がいるが、ポイントはみんなアゴがしゃくれているところ。

お客さんの協力もあってコンプリートできたため、ブームはひと段落したそうだ。

なお、「ムール貝のヒューガルデン蒸し」は出汁が効いたスープも飲み干したい。そう伝えると、小百合さんは温めたうえに洒落た器で持ってきてくれた。

めくるめくベルギービールの世界と看板娘の愛され具合を堪能した。最後に読者へのメッセージをお願いします。

【取材協力】
YOTSUYA BREWERY
住所:東京都新宿区四谷1-8 中川ビル1F
電話番号:03-3353-1009
https://yotsuya-brewery.gorp.jp
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文